スキャナー・ダークリー
A Scanner Darkly
(アメリカ 2006)
[製作総指揮] ジョージ・クルーニー/ベン・コスグローヴ/ジェニファー・フォックス/ジョン・スロス/スティーヴン・ソダーバーグ
[製作] トミー・パロッタ/ジョナ・スミス/アーウィン・ストフ/アン・ウォーカー・マクベイ/パーマー・ウエスト/エリン・ファーガソン/サラ・ジョンソン
[監督] リチャード・リンクレイター
[原作] フィリップ・K・ディック『暗闇のスキャナー』
[脚本] シェーン・F・ケリー
[撮影] アラル・キビロ
[音楽] グレアム・レイノルズ
[ジャンル] アニメーション/コメディ/SF
[受賞]
ロサンゼルス映画批評家協会賞アニメーション映画賞
キャスト

キアヌ・リーヴス
(フレッド/ボブ・アークター)

ロバート・ダウニー・ジュニア
(ジム・バリス)

ウディ・ハレルソン
(アーニー・ラックマン)

ウィノナ・ライダー
(ドナ・ホーソーン)
ロリー・コクレーン (チャールズ・フレック)
ショーン・アレン (フレッド)(声)
ダメオン・クラーク (マイク)
マルコ・ペレラ (ドナルド)
ライフ・アンデシュ (フレック・スーサイド・ナレーター)
概要
『スキャナー・ダークリー』(A Scanner Darkly)は、2006年公開のSFアニメーション映画。原作はフィリップ・K・ディックの同名小説で、監督・脚本はリチャード・リンクレイター。主演はキアヌ・リーヴス、ウィノナ・ライダー、ロバート・ダウニー・ジュニア、ウディ・ハレルソン。映画はロトスコープ技術(実写映像の上にアニメーションを描く技法)を使用し、独特な視覚表現を持つ。近未来のアメリカを舞台に、政府の監視社会と薬物中毒が交錯する物語が描かれる。
ストーリー
近未来のアメリカ。政府は市民を監視し、違法薬物「物質D(Substance D)」の蔓延を阻止しようとしている。物質Dは強烈な中毒性を持ち、使用者の脳を破壊する恐ろしいドラッグだった。
ボブ・アークター(キアヌ・リーヴス)は、カリフォルニアに住む捜査官で、政府の極秘プログラムに従事している。しかし、彼の身元は「スクランブル・スーツ」と呼ばれる特殊なスーツによって完全に隠されている。このスーツを着ることで、彼は顔や声をランダムに変化させ、上司さえ彼の正体を知らない状態になっている。
ボブの任務は、物質Dの密売組織を調査すること。しかし、彼自身が捜査のために物質Dを使用するうちに、次第に薬物中毒に陥っていく。彼の脳は左右の認識が分裂し、自分が捜査官であることと、犯罪者であることの境界が曖昧になっていく。さらに、彼が監視していたのは実は自分自身だったことが判明し、現実と妄想の区別がつかなくなっていく。
一方、ボブの周囲には、彼の恋人ドナ(ウィノナ・ライダー)や、怪しげな友人バリス(ロバート・ダウニー・ジュニア)、ラックマン(ウディ・ハレルソン)らがいる。彼らは皆、物質Dに侵され、まともな判断ができなくなっていた。やがてボブは政府の思惑に巻き込まれ、彼の精神は崩壊していく。
最終的に、彼は薬物リハビリ施設「ニュー・パス」に送られ、そこで労働を強制される。しかし、彼は偶然にも物質Dが政府の管理下で栽培されていることを知る。ボブは自分の役割を完全に忘れかけているが、最後の瞬間に一握りの花をポケットに忍ばせる。その花こそが、物質Dの原材料だった——これは、いつか誰かが真実に気付くための、彼の最後の記憶だった。
エピソード
ロトスコープ技術の導入
映画は実写で撮影された後、アニメーションとして上書きされる「ロトスコープ」技術が使用された。これにより、独特な視覚効果が生まれた。
キアヌ・リーヴスのキャスティング
監督のリチャード・リンクレイターは、キアヌの「現実と虚構の狭間にいるような演技」が原作の主人公にぴったりだと考え、彼をキャスティング。
原作はフィリップ・K・ディックの実体験
物語はディック自身の薬物体験を元にしており、彼の友人たちが薬物中毒で苦しむ姿を反映している。
ウィノナ・ライダーのドナ役
ウィノナは原作の大ファンで、自らオーディションを受けて役を獲得。
ロバート・ダウニー・ジュニアの怪演
彼の演じるバリスは、原作のキャラクターに忠実でありながら、即興のセリフも多く取り入れられた。
薬物中毒のリアリティ
キャストは実際の薬物中毒患者の記録映像を見て、演技の参考にした。
撮影後の編集に2年以上
実写撮影自体は短期間で終了したが、ロトスコープ処理に膨大な時間がかかった。
リチャード・リンクレイターのこだわり
彼は「アニメーションによって現実と幻想の境界を曖昧にする」ことを狙った。
音楽の選曲
映画の不穏な雰囲気を強調するため、オルタナティブ・ロックを多用。
スクランブル・スーツの視覚効果
「スクランブル・スーツ」の変化する顔と姿は、特殊なアルゴリズムでランダムに生成された。
フィリップ・K・ディックへのオマージュ
映画の最後に、彼の友人たちの名前がクレジットとして流れる。
キアヌの演技の特徴
彼の演技は、現実を見失っていくボブ・アークターの心情を反映するため、意図的に抑制されたものとなった。
リアルなセリフ
いくつかの会話は、実際にドラッグ中毒者が話した言葉を基にしている。
視覚的な幻覚表現
ロトスコープによって、キャラクターの体がゆがむ、壁が溶けるなどの効果が生まれた。
ウディ・ハレルソンの出演
彼は薬物問題に関心があり、社会的なメッセージ性のある映画として出演を決めた。
批評家の評価
一部の批評家は「視覚的に斬新だが、難解」と評した。
原作との違い
映画は原作に忠実だが、一部の描写が省略されている。
カルト映画としての評価
一般的なヒットにはならなかったが、後に「ディック作品の映像化として最も忠実」と再評価された。
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