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ブルックリン横丁 A Tree Grows in Brooklyn 1945 |キャスト・あらすじ【ネタバレ】

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舗道の割れ目から伸びる、希望という名の枝。貧しき日々を照らす、父と娘の情愛。

20世紀初頭のニューヨーク。貧しいアパートの中庭で、コンクリートを突き破って育つ一本の木(神樹)に自らの境遇を重ね、懸命に生きる少女。夢想家で酒浸りの父と、現実を背負う厳しい母の間で揺れながら、少女が大人へと成長していく姿を瑞々しく描いた、巨匠エリア・カザンの記念すべきデビュー作。

ブルックリン横丁
A Tree Grows in Brooklyn
(アメリカ 1945)

[製作] ルイス・D・ライトン
[監督] エリア・カザン
[原作] ベティ・スミス
[脚本] テス・スレシンジャー/フランク・デイヴィス/アニタ・ルース
[撮影] レオン・シャムロイ
[音楽] アルフレッド・ニューマン
[ジャンル] ドラマ
[受賞] アカデミー賞 助演男優賞(ジェームズ・ダン)

キャスト

ドロシー・マクガイア
(ケイティ・ノーラン)

ジョーン・ブロンデル (シシー伯母)
ジェームズ・ダン (ジョニー・ノーラン)
ロイド・ノーラン (マクシェーン)
ジェームズ・グリーソン (マカリティ)
テッド・ドナルドソン (ニーリー・ノーラン)
ペギー・アン・ガーナー (フランシー・ノーラン)
ルース・ネルソン (ミス・マクドノー)
ジョン・アレクサンダー (スティーヴ・エドワーズ)


受賞・ノミネートデータ

受賞年部門結果
1946第18回アカデミー賞助演男優賞(ジェームズ・ダン)受賞
1946第18回アカデミー賞特別賞(子役賞:ペギー・アン・ガーナー)受賞
1946第18回アカデミー賞脚色賞ノミネート

評価

後に『欲望という名の電車』や『波止場』を撮るエリア・カザンの初監督作品であり、彼の演出の原点ともいえる人間賛歌です。スタジオ内の緻密なセットでありながら、湿り気のある空気感まで捉えたレオン・シャムロイの撮影と、人々の感情を優しく包み込むアルフレッド・ニューマンの音楽が見事に調和しています。

単なる「美談」に終わらせず、貧困の過酷さや夫婦の軋轢をリアルに描きつつ、それでも失われない人間の尊厳を丁寧に掬い上げた名作として、今なお多くの人々に愛されています。


あらすじ:中庭の木が見つめる家族の肖像

1912年、ニューヨーク・ブルックリン。アイルランド移民のノーラン家は、極貧生活の中にあった。娘のフラン(ペギー・アン・ガーナー)は読書好きの多感な少女で、優しく夢見がちな父ジョニー(ジェームズ・ダン)を深く愛していた。しかしジョニーは、歌の才能がありながらも定職につけず、酒に溺れる日々。家計を支える母ケイティ(ドロシー・マクガイア)は、生きるために必死なあまり、家族に対して厳しく接してしまう。

フランは、厳しい現実から逃れるように、アパートの中庭で力強く育つ一本の木を眺め、いつか作家になることを夢見る。しかし、家計はさらに苦しくなり、最愛の父との別れ、そして母の妊娠という大きな転機が彼女に訪れる。

酒が原因で体力を消耗していた父ジョニーは、吹雪の中で仕事を探し、肺炎をこじらせて帰らぬ人となる。悲しみに打ちひしがれるフランだったが、彼女を支えたのは、父が生前、娘の卒業を祝って密かに花を贈る手配をしていたという事実だった。

母ケイティは無事に赤ん坊を産み、地元の警官マクシェイン(ロイド・ノーラン)からのプロポーズを、家族の生活のために受け入れる。フランは自分たちの生活が少しずつ変わっていくことを感じながらも、かつて父と愛した中庭の木を見上げる。その木は、無残に切られてもなお、新しい芽を吹いていた。父の思い出を胸に、フランは未来へ向かって第一歩を踏み出すのだった。


エピソード・背景

  • エリア・カザンの第一歩
    舞台演出家として成功していたカザンの映画デビュー作。俳優から最高の演技を引き出す彼のスタイルは、本作のジェームズ・ダンやペギー・アン・ガーナーの受賞によって早くも証明されました。
  • ジェームズ・ダンの奇跡的なカムバック
    実際に一時期アルコール問題を抱えていたジェームズ・ダンは、このジョニー役で見事な復活を遂げ、アカデミー助演男優賞を受賞しました。
  • 子役ペギー・アン・ガーナーの輝き
    彼女の繊細で知的な演技は「映画史上最高の子役の演技の一つ」と称され、その年のアカデミー特別賞(子役賞)を授与されました。
  • アルフレッド・ニューマンの情緒
    20世紀フォックスの音楽部長だったニューマンが、下町の哀愁と希望を、ストリングスを中心とした美しい旋律で彩りました。
  • レオン・シャムロイの陰影
    カラー撮影の巨匠として知られるシャムロイが、本作では白黒撮影で見事な奥行きを表現。アパートの狭さや路地裏のディテールが、フランの心理状態を際立たせています。
  • 原作のベストセラー
    ベティ・スミスの半自伝的小説が原作。当時のアメリカ人にとって、ブルックリンという場所は「貧しくとも夢があった場所」の象徴でした。

まとめ:作品が描いたもの

『ブルックリン横丁』は、たとえ劣悪な環境であっても、知性と想像力、そして家族への愛があれば、人は高く伸びることができるという真理を描き出しました。父ジョニーが象徴する「夢」と、母ケイティが象徴する「現実」。その両方を受け入れてこそ、子どもは真に大人へと成長できるのだと。

切られた木から再び芽が出るラストシーンは、不完全な父を許し、厳しかった母を理解し始めたフランの心の象徴です。本人の映画人生は、こうした身近な家族の絆や成長の痛みを、一切の虚飾なく銀幕に映し出し、観る者の心に希望の種を蒔き続けたものと言えるでしょう。


〔シネマ・エッセイ〕

アルフレッド・ニューマンの穏やかな旋律が流れる中、レオン・シャムロイが映し出すブルックリンの夕暮れ。ペギー・アン・ガーナーが屋上で本を読むその静かな時間は、貧しさという厚い雲を突き抜けて輝く光のようです。

ジェームズ・ダンが演じる父ジョニーの、不甲斐ないけれど温かな眼差し。彼は娘にパンを与えることはできなくても、夢を見るための「言葉」を与えました。その贈り物が、どれほどフランの人生を豊かにしたことか。父の死という悲劇を乗り越え、母の苦労を分かち合う彼女の姿に、私たちは「生きる力」の源泉を見ます。

コンクリートの隙間から伸びる一本の木。それは、どんなに踏みつけられても、光を求めて空を仰ぐことをやめない人間の魂そのものです。映画が終わっても、私たちの心には、切られた幹から力強く伸びる緑の若芽と、父の愛を糧にして歩き出すフランの凛とした後ろ姿が、いつまでも焼き付いているのです。

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