ボーン・アイデンティティー
The Bourne Identity
(アメリカ・チェコ・ドイツ 2003)
[製作総指揮] ロバート・ラドラム/フランク・マーシャル
[製作] パトリック・クロウリー/リチャード・N・グラッドスタイン/ダグ・リーマン/デヴィッド・ミンコフスキー/マシュー・スティルマン/アンドリュー・R・テネンバウム
[監督] ダグ・リーマン
[原作] ロバート・ラドラム
[脚本] トニー・ギルロイ/W・ブレーク・ヘロン
[撮影] オリヴァー・ウッド/ドン・バージェス/ダニエル・ミンデル
[音楽] ジョン・パウエル
[ジャンル] アクション/スリラー
[シリーズ]
ボーン・アイデンティティ(2002)
ボーン・スプレマシー(2004)
ボーン・アルティメイタム(2007)
ボーン・レガシー(2012)
ジェイソン・ボーン(2016)
キャスト

マット・デイモン
(ジェイソン・ボーン)

フランカ・ポテンテ
(マリー・クルーツ)

クリス・クーパー
(コンクリン)

クライヴ・オーウェン
(教授)

ブライアン・コックス
(ウォード・アボット)
アドウェール・アキノエ・アグバエ (ニクワナ・ウォンボシ)
ガブリエル・マン ( ゾーン)

ジュリア・スタイルズ
(ニコレット)
ストーリー
嵐の夜、地中海を漂流していた一人の男(マット・デイモン)がイタリアの漁船に救助される。背中には2発の銃弾を受け、さらに記憶を失っていたが、彼の皮膚の下にはスイスの銀行口座を示すマイクロカプセルが埋め込まれていた。
回復した男はチューリッヒの銀行へ向かい、貸金庫の中に「ジェイソン・ボーン」という名のアメリカ・パスポートと、多額の現金、そして複数の偽造パスポートや拳銃を見つける。困惑する彼の前に、警察や謎の追っ手が次々と現れる。ボーンは無意識のうちに、素手で複数を制圧する高度な格闘術や、数ヶ国語を操る能力を発揮し、自分自身の異常な「正体」に恐怖を感じ始める。
追跡を逃れるため、彼はたまたま居合わせた女性マリー(フランカ・ポテンテ)に大金を払い、彼女の車でパリへと向かう。一方、CIAの極秘プログラム「トレッドストーン(踏み石)計画」の責任者コンクリンは、ボーンが任務に失敗して「脱走」したと見なし、欧州各地の暗殺者たちにボーン抹殺の指令を出すのだった。
逃避行の中でボーンはマリーと愛し合うようになるが、彼女を危険に晒したくない彼は、彼女を逃がして一人で決着をつける覚悟を決める。ついに自分が「暗殺者」であったことを思い出したボーン。かつての任務で、ターゲットの独裁者ウォンボシを殺そうとした際、彼の傍らに子供たちがいたことで引き金を引けず、逃走中に撃たれて海へ落ちたのが記憶喪失の原因だった。
ボーンはパリのセーフハウスへ乗り込み、コンクリンと対峙する。「自分はもう暗殺者ではない」と辞職を宣言し、追ってくるなと警告して姿を消す。一方、CIAの上層部は不手際を隠蔽するため、用済みとなったコンクリンを別の暗殺者に殺害させ、トレッドストーン計画を強引に閉鎖する。
数ヶ月後。ギリシャの島でひっそりとレンタルショップを営んでいたマリーのもとに、一人の男が現れる。それは、過去を捨てて生きる道を選んだボーンだった。二人は再会を喜び、静かに抱き合って物語は幕を閉じる。
受賞・ノミネートデータ
- 2003年 ASCAP映画テレビ音楽賞
- 受賞:興行成績上位映画賞
- 興行・評価
- 全世界で約2億1400万ドルの興行収入を記録する大ヒット。マット・デイモンを「知性派アクションスター」として決定づけただけでなく、その後の『007』シリーズなどにも影響を与えるほど、スパイ映画のリアリズムに革命を起こした。
エピソード・背景
- マット・デイモンの役作り
当時、アクションのイメージがなかったマットは、監督から「プロボクサーのように歩け」と指示され、6ヶ月間のボクシング訓練のほか、武器の扱い、武術、フィリピンの格闘技(エスクリマ)などを猛特訓して挑みました。 - 監督が自ら撮影
ダグ・リーマン監督は臨場感を出すため、自らカメラを持って撮影することも多く、カメラマンにはあえてリハーサルを見せず、「次に誰が喋るか分からない」緊迫感を映像に生み出しました。 - 本物の海兵隊員
チューリッヒのアメリカ領事館でのシーンでは、エキストラではなく、当時実際に欧州に駐留していた本物のアメリカ海兵隊員が警備役として出演しています。 - ブラッド・ピットも候補だった
当初はブラッド・ピットがボーン役に検討されていましたが、彼は『スパイ・ゲーム』を選んだため、マット・デイモンに白羽の矢が立ちました。 - 監督の父親の影
リーマン監督の父、アーサー・リーマンは著名な弁護士で、イラン・コントラ事件などの政府の不正調査に携わっていました。その経験が、本作の「冷徹な国家機関」の描写に影響を与えています。 - 30分間の書き直し
製作途中でスタジオ側から「もっとアクションを」と要望があり、クライマックスの30分間は急遽書き直され、わずか10日間で再撮影が行われるという過酷な現場でした。
まとめ:作品が描いたもの
本作は、冷戦時代の「国家に忠誠を誓うスパイ」から、ポスト冷戦時代の「自分自身の良心に従う個人」への転換を描いています。ボーンが記憶を取り戻す過程で直面するのは、自分が「国家の道具」として作られた殺人マシンだったという残酷な真実です。
しかし、彼はその運命を拒絶し、最後には一人の人間としてのアイデンティティーを選び取ります。派手なガジェットに頼らず、身の回りの物(ボールペンなど!)や高度な格闘技術だけで戦うリアリズムは、「等身大の恐怖と強さ」を観客に突きつけ、現代アクションの新しいスタンダードとなりました。


