クローデット・コルベール
Claudette Colbert

1903年9月13日、フランス・パリ生まれ。
1996年7月30日、バルバドスで死去。享年92歳。
本名エミリー(リリー)・ショーショワン。
父はフランス人、母はイギリス人。
身長164cm。
幼い頃にアメリカに移る。
速記者として働いていたが、舞台女優になり、ブロードウェイで活躍。
24歳の時「力漕一艇身」でスクリーンデビュー。
「或る夜の出来事」でオスカーを獲得。
晩年はひとり暮らしで、死後、350万ドル相当の遺産は世話をしてもらった隣人に贈られた。
今回ご紹介するのは、弾けるようなユーモアと洗練された都会的センスで、1930年代のハリウッドを魅了した「コメディの女王」、クローデット・コルベールです。
彼女は、フランス生まれらしいシックな気品と、親しみやすい「隣の女の子」のような魅力を併せ持った稀有なスターでした。代表作『或る夜の出来事』で見せた、ヒッチハイクで足をチラリと見せて車を止めるあの伝説的なシーンは、彼女の茶目っ気たっぷりのキャラクターを象徴しています。
スクリューボール・コメディの第一人者でありながら、史劇やメロドラマでも高い実力を発揮し、当時の女性たちのファッションリーダーとしても絶大な影響力を持った、知的なトップ女優です。
ウィットと気品、そして最高の微笑み。クローデット・コルベール、銀幕の洗練
クローデット・コルベールの魅力は、立て板に水のような軽妙な台詞回しと、どんな窮地にあっても失われないエレガンスにあります。
彼女は、わがままな令嬢から献身的な母親までを完璧に演じ分けましたが、その根底には常に、観客を味方につけてしまう「賢明な明るさ」がありました。共演したクラーク・ゲーブルやゲイリー・クーパーといった大スターたちと、対等以上に渡り合う彼女の存在感は、自立した新しい女性像の先駆けでもありました。彼女が画面に登場するだけで、映画は一気に華やぎ、洗練された「大人の社交界」の香りが漂ったのです。
✦ PROFILE & BACKGROUND
- 本名:エミリー・クローデット・ショシュワン
- 生涯:1903年9月13日 ~ 1996年7月30日(享年92歳)
- 出身:フランス・サン=マンデ(幼少期にニューヨークへ移住)
- 背景:美大生から舞台女優へ転身し、ブロードウェイで成功。トーキーの到来と共にパラマウント映画の看板女優となり、知的な会話劇で本領を発揮しました。
- 功績:1934年のアカデミー賞において、『或る夜の出来事』で主演女優賞を受賞。当時、ハリウッドで最も高額なギャラを誇るスターの一人であり、そのキャリアは舞台、映画、テレビと半世紀以上に及びました。
🏆 主な受賞リスト
| 年 | 賞 | 部門 | 対象作 |
| 1934 | アカデミー賞 | 主演女優賞 | 或る夜の出来事 |
| 1935 | アカデミー賞 | 主演女優賞(ノミネート) | 模倣の人生 |
| 1944 | アカデミー賞 | 主演女優賞(ノミネート) | 君去りし後 |
| 1987 | ゴールデングローブ賞 | 助演女優賞(TV部門) | グレンヴィル家の秘密 |
| 1989 | ケネディ・センター名誉賞 | 芸術への貢献 | 生涯の功績に対して |
1. スクリューボール・コメディの金字塔:或る夜の出来事
フランク・キャプラ監督による、ロードムービーの傑作です。クローデットは、家出したわがままな令嬢エリーを演じ、失業中の新聞記者(クラーク・ゲーブル)との反発し合う恋をコミカルに、かつ瑞々しく演じました。
当初、彼女はこの役を引き受けるのを渋っていましたが、いざ撮影が始まると、ドーナツをコーヒーに浸す食べ方を教わるシーンや、前述のヒッチハイクのシーンなどで、天性のコメディ・センスを爆発させました。この作品で彼女はアカデミー主演女優賞に輝き、ハリウッドにおけるコメディの地位を一段引き上げることに貢献しました。
2. 妖艶なる歴史の女王:クレオパトラ
巨匠セシル・B・デミル監督による、贅を尽くした史劇大作です。クローデットは、エジプトの女王クレオパトラを演じ、それまでのコメディエンヌとしてのイメージを一新しました。
彼女の持ち味である知性が、政治的策略を巡らせる女王の役どころに見事にハマり、同時にデミル監督特有の豪華絢爛な衣装やセットの中で、圧倒的なスターのオーラを放ちました。ミルクの風呂に入る有名なシーンなど、彼女の美しさが「伝説」へと昇華された一作であり、彼女のキャリアにおける多様性を証明した重要な作品です。
3. 社会の歪みに立ち向かう母性:模倣の人生
人種差別という重いテーマを扱った、ジョン・M・スタール監督による感動作です。クローデットは、女手一つで娘を育てながらパンケーキの事業を成功させる未亡人を演じました。
いつもの軽快なコメディとは打って変わり、親友である黒人女性との絆や、出自に苦しむ娘との関係に悩む等身大の女性を深く繊細に表現。彼女の持つ「誠実さ」が観客の涙を誘い、アカデミー賞ノミネートという形で高い評価を得ました。彼女の演技の幅の広さを語る上で欠かせない名作です。
4. 都会派ウィットの真骨頂:ミッドナイト
フランスを舞台に、一文無しの女性が貴族のふりをして社交界を騒がせる、洗練されたコメディです。クローデットのフランス人としてのルーツが感じられるような、シックな装いとウィットに富んだ会話が全編に溢れています。
「嘘がバレそうになる瞬間」のスリルを楽しみ、それをエレガントにかわしていく彼女の演技は、まさに職人芸。ビリー・ワイルダーらが手掛けた脚本の良さを最大限に引き出し、彼女がなぜ「洗練された女性」の代名詞と呼ばれたのかが手に取るようにわかる一作です。
5. 戦時下の家族の絆:君去りし後
第二次世界大戦中、夫を戦場に送り出し、家庭を守る女性たちの姿を描いたヒューマンドラマです。クローデットは、二人の娘を持つ母親役を演じ、銃後を支える女性の強さと優しさを体現しました。
華やかなスターのイメージを封印し、当時のアメリカの平均的な主婦としての苦悩や希望を静かに演じた姿は、戦時中の多くの観客から深い共感を得ました。彼女のキャリアの中でも、最も落ち着いた「包容力」を感じさせる名演であり、3度目のアカデミー賞ノミネートへと繋がりました。
📜 クローデット・コルベールを巡る知られざるエピソード集
1. 「左顔」への絶対的なこだわり
クローデットは、自分の顔の左側の方が美しいと確信しており、撮影現場では常に「左側から撮ること」を徹底させました。このこだわりは有名で、セットの構造や共演者の立ち位置さえも、彼女の左側がカメラに向くように変更させることがあったそうです。この完璧主義が、銀幕における彼女の「不変の美しさ」を支えていました。
2. アカデミー賞授賞式の「駅での奇跡」
『或る夜の出来事』でノミネートされた際、彼女は自分が受賞するとは微塵も思っておらず、授賞式の夜はニューヨークへ向かう列車に乗ろうとしていました。しかし、受賞が発表されるやいなや、慌ててタクシーで会場へ連れ戻され、旅行服姿のままステージに上がってオスカー像を受け取りました。その気取らない姿は、さらに彼女の人気を高めることになりました。
3. 流行を作った「コルベール・バングス」
彼女のトレードマークであった眉の上で切り揃えた前髪(バングス)は、当時の女性たちの間で爆発的なブームとなり、「コルベール・バングス」と呼ばれました。彼女は自分の顔立ちを最も魅力的に見せるスタイルを熟知しており、ファッションリーダーとしても当時のハリウッドを牽引していたのです。
4. 共演者を虜にする「プロフェッショナリズム」
現場での彼女は非常に効率的で、無駄を嫌うプロフェッショナルとして知られていました。クラーク・ゲーブルは当初彼女と打ち解けられませんでしたが、彼女の仕事に対する誠実さと、時折見せるフランス風のユーモアに次第に魅了され、最後には「最高の共演者だ」と絶賛しました。
5. 芸術を愛した「美大生」の眼差し
女優になる前、彼女は商業デザイナーを目指して美術学校に通っていました。その美的センスは生涯衰えず、引退後はバルバドスの邸宅で絵画に没頭。彼女が描くポートレートや風景画はプロ級の腕前で、映画界でのキャリアを終えた後も、芸術家として豊かな感性を発揮し続けました。
6. 92歳まで貫いた「現役」の誇り
晩年になっても、彼女の演技への情熱は衰えませんでした。80代を過ぎても舞台に立ち続け、1987年にはテレビドラマでゴールデングローブ賞を受賞。彼女は「年を重ねることは、役柄が増えること」とポジティブに捉え、最期まで銀幕の女王らしい気品と美しさを保ちながら、優雅な人生を全うしました。
📝 まとめ:洗練されたコメディを築いた映画人生
クローデット・コルベールは、知的なウィットとフランス仕込みの気品を武器に、ハリウッド黄金期を軽やかに駆け抜けた女優でした。
その足跡は、スクリューボール・コメディというジャンルの発展に大きく寄与しただけでなく、史劇から社会派メロドラマまで、あらゆる役に説得力を与える確かな実力に裏打ちされています。現場では常にプロフェッショナルな姿勢を貫き、自身の見せ方を冷静にコントロールしながら、自立した新しい女性像を演じ続けました。
92歳で幕を下ろしたその生涯は、舞台から映画、そしてテレビへと時代が移ろう中で、自らの洗練されたスタイルを一度も崩すことのなかった、ひとつの完成された俳優としての映画人生でした。
[出演作品]
1927 24歳
力漕一挺身 For the Love of Mike
1929 26歳
壁の穴 The Hole in the Wall
女は嘘つき The Lady Lies
1930 27歳
恋愛四重奏 Young Man of Manhattan
チゥインガム行進曲 The Big Pond
屠殺者 Manslaughter
1931 28歳
彼女の名誉 Honor Among Lovers
女秘書の秘密 Secrets of a Secretary
貨物船と女 His Woman
1932 29歳
百米恋愛自由型 Misleading Lady
お化け大統領 The Phantom President
1933 30歳
霧笛の波止場 I Cover the Waterfront
三角の月 Three-Cornered Moon
ブルースを唄ふ女 Torch Singer
1934 31歳
恐怖の四人 Four Frightened People
或る夜の出来事 It Happened One Night
アカデミー賞主演女優賞
1935 32歳
輝ける百合 The Gilded Lily
白い友情 Private Worlds
社長は奥様がお好き She Married Her Boss
花嫁の感情 The Bride Comes Home
1936 33歳
二国旗の下に Under Two Flags
1937 34歳
セイルムの娘 Maid of Salem
巴里で逢った彼 I Met Him in Paris
トヴァリッチ Tovarich
1938 35歳
舞姫ザザ Zaza
1939 36歳
1940 37歳
囁きの木陰 Arise, My Love
1941 38歳
ひばり Skylark
追憶 Remember the Day
1942 39歳
1943 40歳
1944 41歳
1945 42歳
奥様の冒険 Guest Wife
1946 43歳
離愁 Tomorrow Is Forever
恋愛超特急 Without Reservations
秘めたる心 The Secret Heart
1947 44歳
1948 45歳
眠りの館 Sleep, My Love
1949 46歳
ママの新婚旅行 Family Honeymoon
花嫁売ります Bride for Sale
1950 47歳
三人の帰宅 Three Came Home
狙われた結婚 The Secret Fury
1951 48歳
1952 49歳
マレー・ゲリラ戦 The Planter’s Wife
1954 51歳
運命 Destinées
1961 58歳
1987 84歳
グレンヴィル家の秘密 The Two Mrs. Grenvilles
ゴールデングローブ賞助演女優賞
















