ルイス・ブニュエル
Luis Buñuel

1900年2月22日、スペイン・カランダ生まれ。
1983年7月29日、メキシコ・メキシコシティで死去(肝硬変)。享年83歳。
26歳の頃から監督助手等で経験を積み、29歳の時監督デビューし、「アンダルシアの犬」で世界的に注目される。
シュルレアリスムを追及し、常に問題作を世に送り続けた異才監督。
今回は、シュルレアリスム(超現実主義)の巨匠であり、映画史上最もスキャンダラスで、かつ孤高の芸術家であるルイス・ブニュエルをご紹介します。
彼は、観客が目を背けたくなるような不条理や人間のエロティシズム、そして宗教や階級社会への辛辣な批判を、独特のユーモアと映像美で描き出しました。一度見たら忘れられない、衝撃的なイメージを次々と生み出した映像の魔術師です。
網膜を切り裂く不条理。ルイス・ブニュエルが暴いた「人間の深淵」
ブニュエルの映画は、私たちが普段見ない振りをしている「欲望」や「欺瞞」を白日の下にさらけ出します。
夢と現実が混ざり合い、当たり前の日常が崩壊していく様を、彼は冷徹かつユーモラスに描き出しました。カミソリ、アリ、修道女、そして豪華な晩餐会。彼が選ぶモチーフは、観客の無意識に深く突き刺さり、理性では説明できない揺らぎを呼び起こします。
✦ PROFILE & BACKGROUND
- 本名:ルイス・ブニュエル・ポルトレス
- 生涯:1900年2月22日 ~ 1983年7月29日(享年83歳)
- 出身:スペイン・アラゴン州
- 背景:厳格なカトリック家庭に育ちましたが、大学時代にダリやロルカと出会い、前衛芸術の世界へ。スペイン内戦を機にメキシコやフランスへ渡り、波乱の人生を送りながら傑作を残し続けました。
- 功績:カンヌ国際映画祭パルム・ドール、アカデミー外国語映画賞など受賞多数。
1. 衝撃のデビュー:アンダルシアの犬
サルバドール・ダリとの共同製作による短編。冒頭の「カミソリで眼球を切り裂く」シーンはあまりにも有名で、映画史上最もショッキングなイメージの一つとされています。筋書きや論理を一切排除したこの作品は、シュルレアリスム映画の金字塔となりました。
2. 宗教と道徳への挑戦:ビリディアナ
修道女になる直前の娘が、乞食たちを救おうとするものの蹂躙されるという物語。最後の晩餐をパロディ化したシーンが「冒涜的だ」としてバチカンから激しい非難を浴びましたが、カンヌで最高賞を受賞。ブニュエル特有の皮肉と毒が詰まった傑作です。
3. 終わらない晩餐会:ブルジョワジーの秘かな愉しみ
夕食を食べようとする男女が、不条理な出来事に次々と見舞われ、いつまで経っても食事ができないコメディ。中産階級の虚飾や欺瞞を軽やかに笑い飛ばし、アカデミー外国語映画賞を受賞した晩年の代表作です。
🎭 ルイス・ブニュエルを巡る珠玉のエピソード集
サルバドール・ダリとの絶交と確執
若き日の二人は親友であり、歴史的な共作を残しましたが、後にその関係は破綻しました。ダリが商業主義に走り、右翼的な思想を強めたことにブニュエルが激怒したことが原因と言われています。ブニュエルは自伝の中で、後に再会した際も「かつての友情は戻らなかった」と語っています。
護身用の「石」をポケットに入れていた初演
「アンダルシアの犬」の初演時、ブニュエルは観客が怒り狂って襲いかかってくることを確信していました。そのため、ズボンのポケットに石を詰め込み、いざとなったら投げつけて逃げる準備をしてスクリーンの裏に隠れていたそうです。しかし意外にも拍手喝采を浴び、彼は「期待外れだ」と漏らしたという伝説があります。
「神に感謝します、私は無神論者です」
カトリックを痛烈に批判し続けた彼が残した、最も有名な逆説的な名言です。彼は生涯を通じて、宗教が持つ抑圧や偽善を攻撃しましたが、同時に宗教的な儀式やイメージに強く惹きつけられるという矛盾も抱えていました。
マティーニへの異常なこだわり
彼は大のお酒好きで、特にマティーニの作り方には並々ならぬ執念を持っていました。「ブニュエル流マティーニ」と呼ばれるそのレシピは、氷の上をベルモットの瓶が通り過ぎるだけでいい(極限までドライにする)というもの。食事や酒への執着は、彼の映画の重要なテーマでもありました。
独裁者フランコとの奇妙な攻防
スペインの独裁者フランコはブニュエルを嫌っていましたが、彼の映画が世界的に高く評価されると「スペインの誇り」として利用しようとしました。「ビリディアナ」がカンヌで受賞した際、スペイン政府の役員がトロフィーを受け取りましたが、その後内容が「不謹慎だ」と発覚し、上映禁止になるという大騒動に発展しました。
性的なフェティシズムの投影
彼の映画には、しばしば「靴」や「足」に執着するフェティシズムが登場します。これは彼自身の性的な嗜好を反映していると言われており、厳格な教育を受けたことによる反動や、抑圧された欲望を映画という形で見事に昇華させていました。
📝 まとめ:不条理と本能を映し出す、静かなる革命児
ルイス・ブニュエルは、人間の無意識下に眠る欲望や、社会が隠し持っている歪みを、映像というナイフで鮮やかに解剖してみせた不世出の監督です。
物語の整合性よりもイメージの喚起力を信じ、論理の壁を軽々と飛び越えて「真実」を描き出しました。冷徹な皮肉の中に潜むユーモアと、美しくも残酷な視覚表現は、後世の映画作家たちに計り知れない影響を与え続けています。観客を心地よく眠らせるのではなく、目を見開かせること。その精神は、時代を経ても色あせることなく、今もなお銀幕の上で挑発的な光を放っています。
[監督作品]
1928 28歳
アッシャー家の末裔(脚色)
1929 29歳
1930 30歳
1933 33歳
糧なき土地 Terre sans pain
1940 40歳
El Vaticano de Pio XII
1947 47歳
グラン・カジノ Gran Casino
1949 49歳
のんき大将 El gran Calavera
1950 50歳
カンヌ映画祭監督賞
1951 51歳
スサーナ Susana
賭博師の娘 La hija del engaño
1952 52歳
昇天峠 Subida al cielo
1953 53歳
嵐が丘 Abismos de pasión
1954 54歳
幻影は市電に乗って旅をする La ilusión viaja en tranvía
河と死 El río y la muerte
1955 55歳
アルチバルド・デラクルスの犯罪的人生 Ensayo de un crimen
1956 56歳
それを暁と呼ぶ Cela s’appelle l’aurore
この庭に死す La Mort en ce jardin
1959 59歳
ナサリン Nazarín
熱狂はエル・パオに達す La fièvre monte à El Pao
1960 60歳
若い娘 The Young One
1961 61歳
カンヌ映画祭グランプリ
1962 62歳
1964 64歳
小間使の日記 Le Journal d’une femme de chambre
1965 65歳
砂漠のシモン Simón del desierto
1967 67歳
1969 69歳
銀河 La Voie lactée
1970 70歳
哀しみのトリスターナ Tristana
1972 72歳
ブルジョワジーの秘かな愉しみ Le Charme discret de la bourgeoisie
アカデミー賞外国語映画賞
フランコ・ネロとナタリー・ドロンのサタンの誘惑(脚)
1974 74歳
自由の幻想 Le Fantôme de la liberté















