24時間の休暇、100万ドルのときめき。ジーン・ケリーとフランク・シナトラがニューヨークを駆け抜ける、ミュージカル映画の革命。

『ニューヨーク、ニューヨーク、素敵な街さ!』。24時間の上陸許可を得た3人の水兵たちが、大都会ニューヨークへと飛び出していく。地下鉄で見かけたポスターの美女『ミス・地下鉄』を探して、五番街からエンパイア・ステート・ビルまで、街全体が巨大なダンスホールに変わる。スタジオを飛び出した史上初の本格的な屋外ロケと、ジーン・ケリーの躍動する振付。戦後の解放感と若さの輝きを、テクニカラーの鮮やかな色彩で焼き付けた、ミュージカル映画史に燦然と輝く傑作。
踊る大紐育
On the Town
(アメリカ 1949)
[製作] アーサー・フリード/ロジャー・イーデンス
[監督] ジーン・ケリー/スタンリー・ドーネン
[原作] アドルフ・グリーン/ベティ・コムデン
[脚本] アドルフ・グリーン/ベティ・コムデン
[撮影] ハロルド・ロッソン
[音楽] レナード・バーンスタイン/ロジャー・イーデンス/サウル・チャップリン
[ジャンル] ミュージカル
[受賞] アカデミー賞 作曲賞
キャスト

ジーン・ケリー
(ゲイビー)

フランク・シナトラ
(チップ)
ベティ・ギャレット (ブランヒルド・エスターヘイジー)

アン・ミラー
(クレア・ハドセン)
ジュールス・マンシン (オジー)
ヴェラ・エレン (アイヴィー・スミス)
フローレンス・ベイツ (ディルヨフスカ夫人)
アリス・ピアース (ルーシー・シュミーラー)
ジョージ・ミーダー (教授)
受賞・ノミネートデータ
| 受賞年 | 賞 | 部門 | 結果 |
| 1950 | 第22回アカデミー賞 | ミュージカル映画音楽賞 | 受賞 |
| 1950 | ゴールデングローブ賞 | 撮影賞(カラー部門) | ノミネート |
評価
それまでの「楽屋裏ミュージカル」の形式を打ち破り、映画そのものを祝祭へと昇華させた革命的作品です。共同監督を務めたジーン・ケリーとスタンリー・ドーネンは、豪華なセットの中に閉じこもるのではなく、実際のニューヨークの街角にカメラを持ち出し、日常の風景を魔法のようなダンスの舞台へと変貌させました。
アン・ミラーの超高速タップやヴェラ=エレンのしなやかなバレエ、そしてフランク・シナトラの甘い歌声。これら最高峰の才能がぶつかり合い、1秒たりとも退屈させないスピーディーな展開は、後の『雨に唄えば』へと続く黄金コンビの伝説の幕開けとなりました。
あらすじ:24時間の恋と冒険、摩天楼を駆け抜けろ
早朝のニューヨーク港。海軍の水兵ゲイビー(ジーン・ケリー)、チップ(フランク・シナトラ)、オジー(ジュールス・マンシン)の3人は、24時間限定の休暇を最大限に楽しもうと意気揚々と上陸する。ゲイビーは地下鉄で見かけたポスターの美女「ミス・地下鉄」ことアイヴィ(ヴェラ=エレン)に一目惚れし、仲間と共に彼女を捜し始める。
道中、チップは強引な女性タクシー運転手ヒルディ(ベティ・ギャレット)に捕まり、オジーは人類学者のクレア(アン・ミラー)と意気投合。それぞれが個性豊かな女性たちと出会い、恋の騒動を巻き起こしながら、エンパイア・ステート・ビルから自然史博物館までニューヨークの名所を巡り歩く。限られた時間の中で、彼らは無事にアイヴィを見つけ出し、最高の休暇を締めくくることができるのか。
アイヴィは実はスターなどではなく、生活のためにコニーアイランドの演芸場で働く苦労人だった。ゲイビーは彼女の真実を知っても変わらぬ愛を伝え、仲間たちも加わってコニーアイランドで大騒動を繰り広げる。しかし、無情にも24時間の門限が迫る。
夜明け、軍艦へ戻る直前の波止場で、3組のカップルは別れを惜しみ、再会を誓ってキスを交わす。水兵たちが艦へと乗り込んでいくのと入れ替わりに、新しい24時間の休暇を得た別の水兵たちが「ニューヨーク、ニューヨーク!」と歌いながら街へ飛び出していく。出会いと別れを繰り返す大都会の活気はそのままに、若者たちの輝かしい一日は永遠の思い出となって幕を閉じる。
エピソード・背景
- 画期的なニューヨーク・ロケ
当時、ミュージカルは照明や録音の管理が容易なスタジオで撮るのが常識でしたが、ケリーとドーネンは反対を押し切ってニューヨークでのロケを敢行しました。本物のイエローキャブや高層ビルを背景に踊る姿は、当時の観客に圧倒的な解放感を与えました。 - ジーン・ケリーとスタンリー・ドーネンの初監督作
俳優としての枠を超え、演出にもこだわり抜いたケリーと、若き才能ドーネンの名コンビがここから始まりました。カメラの動きとダンスを完璧にシンクロさせる彼らの手法は、映画界の新たなスタンダードとなりました。 - フランク・シナトラの「水兵」役
すでにスターだったシナトラですが、本作ではケリーの弟分のような、少し控えめでコミカルな役どころを好演しました。彼の柔らかな歌声が、エネルギッシュなダンスシーンに心地よい彩りを添えています。 - アン・ミラーの驚異のタップ
人類学者を演じたアン・ミラーが、博物館の展示品に囲まれて披露するタップダンスは、その速さと正確さで伝説となっています。彼女の脚のラインの美しさも、テクニカラーの画面でひと際輝いています。 - バーンスタイン音楽の変更
舞台版の作曲家レナード・バーンスタインの楽曲は、映画版では一部を除き、より大衆向けのロジャー・イーデンスによる新曲に差し替えられました。これにバーンスタインは不満を抱いたと言われていますが、結果として映画は空前のヒットを記録しました。 - ヴェラ=エレンのバレエ技巧
ゲイビーがアイヴィを妄想する「ミス・ターンシュタイルズ」のダンスシーンでは、ヴェラ=エレンが驚異的な身体能力を披露しています。ケリーは彼女のテクニックを最大限に活かすため、難易度の高い振付を用意しました。 - 衣装と色彩の魔法
水兵の真っ白な制服と、女性たちのカラフルなドレスの対比は、カラー映画の醍醐味です。戦後の暗い影を吹き飛ばすような、明るく、清潔感に溢れたビジュアルイメージが徹底されました。
まとめ:作品が描いたもの
本作は、戦後の平和を享受する若者たちの「今、この瞬間」を、全力で肯定する物語です。24時間という厳格なタイムリミットがあるからこそ、彼らの恋やダンスはよりいっそう激しく、輝きを放ちます。
大都会の喧騒や人混みさえも味方につけた演出は、映画がスタジオという「偽物の箱」から飛び出し、人々の生きる「現実の世界」と結びついた記念碑的な瞬間でした。どんなに短い時間であっても、心を通わせ、踊り明かす喜び。それこそが、戦後を生きる人々が必要としていた最高の贈り物だったのです。
〔シネマ・エッセイ〕
映画が始まった瞬間、あの勇壮なファンファーレと共に画面いっぱいに広がるニューヨークの活気。観ている間、私たちも水兵たちと一緒にタクシーに飛び乗り、摩天楼を見上げて歓声を上げているような、最高にハッピーな気分に浸れます。ジーン・ケリーの笑顔が弾け、シナトラが軽やかにステップを踏む。その姿は、ただの娯楽を超えて、生きることの素晴らしさを全身で表現しているようです。
アン・ミラーのタップが床を鳴らす音、ヴェラ=エレンのドレスがふわりと舞う瞬間。どのカットを切り取っても、夢と希望がこれでもかと詰め込まれています。
映画が終わった後、心に残るのは、朝日が昇る波止場で見せた、少し寂しげな、けれど満足げな彼らの表情です。夢のような時間は過ぎ去るけれど、その輝きは消えることがない。現実の厳しさを知っているからこそ、あの24時間の狂騒がよりいっそう愛おしく感じられるのです。足取りを軽くし、思わず鼻歌を歌いながら街へ出かけたくなる——。この映画は、私たちの心に永遠に続く「休暇」をプレゼントしてくれるのです。

