荒野に響く愛の叫び、燃え上がる情熱と隠された狂気。ゴシック・ロマンの頂点。

孤独な孤児として育ったジェーン・エアが、謎めいた貴族ロチェスターの屋敷で家庭教師として働き始める。二人は魂の奥底で惹かれ合うが、古い屋敷の屋根裏には、恐ろしい秘密が隠されていた――。オーソン・ウェルズの圧倒的な存在感と、若きジョーン・フォンテインの繊細な演技が交錯する不朽の名作。
ジェーン・エア
Jane Eyre
(アメリカ 1943)
[製作] ウィリアム・ゲーツ/ケネス・マクガワン/オーソン・ウェルズ
[監督] ロバート・スティーヴンソン
[原作] シャルロット・ブロンテ
[脚本] ロバート・スティーヴンソン/オルダス・ハクスリー/ジョン・ハウスマン
[撮影] ジョージ・バーンズ
[音楽] バーナード・ハーマン
[ジャンル] ドラマ/恋愛/文芸
キャスト

オーソン・ウェルズ
(エドワード・ロチェスター)

ジョーン・フォンテイン
(ジェーン・エア)

マーガレット・オブライエン
(アデル・ヴァレン)
ペギー・アン・ガーナー (ジェーン・エア(子供時代))
ジョン・サットン (Dr.リヴァース)
サラ・オールグッド (ベシー)
ヘンリー・ダニエル (ヘンリー・ブロックルハースト)
アグネス・ムーアヘッド (リード夫人)
オーブリー・メサー (デント将軍)
イーディス・バレット (フェアファックス夫人)
バーバラ・エヴェレスト (イングラム夫人)
ヒラリー・ブルック (ブランチ・イングラム)

エリザベス・テイラー
(ヘレン・バーンズ)
受賞・ノミネートデータ
- 評価
- 公開当時は大きな賞レースには恵まれませんでしたが、後年になってその卓越した視覚効果と音楽、そして配役の妙が再評価された作品です。特にジョージ・バーンズによる表現主義的なコントラストの強い白黒撮影は、ブロンテ文学特有の不気味さと情熱を見事に視覚化しています。バーナード・ハーマンによる重厚でドラマチックなスコアも、物語の緊迫感を高める重要な要素として絶賛されています。
- 公開当時は大きな賞レースには恵まれませんでしたが、後年になってその卓越した視覚効果と音楽、そして配役の妙が再評価された作品です。特にジョージ・バーンズによる表現主義的なコントラストの強い白黒撮影は、ブロンテ文学特有の不気味さと情熱を見事に視覚化しています。バーナード・ハーマンによる重厚でドラマチックなスコアも、物語の緊迫感を高める重要な要素として絶賛されています。
あらすじ:霧深きソーンフィールド屋敷へ
叔母に疎まれ、過酷な寄宿学校ローウッドで少女時代を過ごしたジェーン・エア(ペギー・アン・ガーナー/成人後:ジョーン・フォンテイン)。彼女は成長し、ソーンフィールド屋敷の家庭教師となる。主人のロチェスター(オーソン・ウェルズ)は、傲慢で気難しい男だったが、ジェーンの知性と揺るぎない精神に触れ、次第に彼女を愛するようになる。
身分違いの恋を乗り越え、二人はついに結婚を誓う。しかし、結婚式の最中に衝撃の事実が判明する。ロチェスターには、屋敷の屋根裏に幽閉されている狂った先妻がいたのだ。絶望したジェーンは、愛しながらも彼の元を去り、荒野へと逃げ出す。
放浪の末、遠く離れた場所で自立した生活を送っていたジェーンだったが、ある夜、風に乗って自分を呼ぶロチェスターの声を聞く。胸騒ぎを覚えた彼女がソーンフィールドへ戻ると、屋敷は先妻が放った火によって焼け落ちていた。
狂った妻は焼死し、ロチェスターは彼女を助けようとして視力を失い、片腕を負傷していた。かつての傲慢さを失い、静かに暮らしていた彼の前にジェーンが現れる。二人は再会し、今度こそ誰にも邪魔されることなく、魂の伴侶として結ばれる。深い傷を負いながらも、二人の愛は荒野の中に真実の光を灯したのだった。
エピソード・背景
- オーソン・ウェルズの支配力
監督はロバート・スティーヴンソンですが、主演のウェルズが演出や脚本に多大な影響を与えたと言われています。その「ウェルズ色」の強さが、作品に独特の重厚感をもたらしています。 - エリザベス・テイラーの少女時代
ジェーンの親友ヘレン役として、当時11歳のエリザベス・テイラーが無名で出演しています。その類まれな美しさと儚い演技は、短時間の登場ながら強烈な印象を残しました。 - バーナード・ハーマンの音楽
後にヒッチコック作品で名を馳せるハーマンが、荒野の風や人間の情念を表現するような、不穏で美しい旋律を書き上げました。 - オールダス・ハクスリーの参加
『すばらしい新世界』で知られる文豪ハクスリーが脚本に参加しており、原作の持つ哲学的な深みが台詞に活かされています。 - 表現主義的な映像
ジョージ・バーンズの撮影は、ドイツ表現主義の影響を感じさせる深い影を多用し、屋敷そのものが一つの生き物であるかのような恐怖を演出しました。 - 天才子役マーガレット・オブライエン
ロチェスターの養女アデールを演じたオブライエンの、フランス語を交えた愛くるしい演技が、暗い物語の中で一筋の清涼剤となっています。 - ジョーン・フォンテインの「内なる強さ」
『レベッカ』で「不安に怯える女性」を演じた彼女が、本作では凛とした自尊心を持つジェーンを演じ、女優としての幅を見せました。
まとめ:作品が描いたもの
『ジェーン・エア』は、一人の女性がいかにして過酷な運命に立ち向かい、自らの尊厳と真実の愛を勝ち取るかを描いた、魂の成長物語です。ロチェスターという巨大な存在に屈することなく、対等な人間として向き合おうとするジェーンの姿勢は、時代を超えて観る者の心を打ちます。
美徳と情熱、理性と狂気の狭間で揺れ動く登場人物たち。その葛藤を、荒野の嵐や焼け落ちる屋敷といった象徴的な情景とともに描き出した本作は、文芸映画の枠を超えた深遠な人間ドラマとなりました。本人の映画人生は、こうした古典の名作に新たな生命を吹き込み、人間の内面にある激しい感情と気高い精神を銀幕に永遠に刻みつけたものと言えるでしょう。
〔シネマ・エッセイ〕
暗い廊下の突き当たりから響く、不気味な笑い声。ジョージ・バーンズが作り出す深い影の中に、オーソン・ウェルズの巨躯が浮かび上がるとき、スクリーンには抗いがたい運命の気配が満ち溢れます。ジョーン・フォンテインの瞳に宿る、静かな、けれど決して折れることのない意志の光が、その闇を少しずつ照らしていく過程は、何度観ても胸を熱くさせます。
バーナード・ハーマンの音楽が、荒野を渡る風のように、言葉にならない叫びを代弁します。愛しているからこそ、正しくあるために去る。そのジェーンの潔い決断は、現代の私たちにとっても、本当の自立とは何かを問いかけてくるようです。
焼け跡の中で再会した二人の、静かな抱擁。失われた視力の代わりに、心の目で互いを見つめ合うラストシーンは、派手なハッピーエンドよりも深く、静かに、愛の真実を語りかけます。霧に包まれたソーンフィールド屋敷の記憶は、映画が終わった後も、私たちの心の中に「信念を持って生きること」の尊さを刻み続けるのです。

