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狩人の夜 The Night of the Hunter 1955 |キャスト・あらすじ【ネタバレ】| ロバート・ミッチャム

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悪魔の説教者、川面を滑る子供たちの逃避行。チャールズ・ロートンが遺した、唯一無二の悪夢的メルヘン。

両手に刻まれた『LOVE』と『HATE』の文字。伝道師を騙り、未亡人の財産を狙って子供たちを追い詰める殺人鬼ハリー・パウエル。名優チャールズ・ロートンが生涯で唯一監督した本作は、ドイツ表現主義のような強烈な光と影、そして童話のような幻想性が融合した異色のスリラー。ロバート・ミッチャムの怪演が、静かな夜を恐怖の色に染め上げる、映画史上最も美しい『黒い真珠』。

狩人の夜
The Night of the Hunter
(アメリカ 1955)

[製作] ポール・グレゴリー
[監督] チャールズ・ロートン
[原作] デイヴィス・グラブ
[脚本] ジェームズ・エイジー/チャールズ・ロートン
[撮影] スタンリー・コルテス
[音楽] ウォルター・シューマン
[ジャンル] クライム/スリラー

キャスト

ロバート・ミッチャム
(ハリー・パウエル)

シェリー・ウィンタース
(ウィラ・ハーパー)

リリアン・ギッシュ
(レイチェル・クーパー)

イヴリン・ヴァーデン (アイシー・スプーン)
ピーター・グレイヴス (ベン・ハーパー)
ジェームズ・グリーソン (バーディ・ステップトウ)
サリー・ジェーン・ブルース (パール・ハーパー)
グロリア・カスティロ (ルビー)
ビリー・チャピン (ジョン・ハーパー)
ドン・ベドー (ウォルト・スプーン)

評価

公開当時はそのあまりに斬新で奇怪なスタイルが理解されず、興行的に惨敗したため、ロートンは二度と監督椅子に座ることはありませんでした。しかし、後年になって「これほど独創的で美しい映画はない」と再評価が急上昇。フランソワ・トリュフォーやマーティン・スコセッシら多くの巨匠が、本作を生涯のベストの一本に挙げています。

リアリズムを排し、セットの歪みや光のコントラストで「子供から見た世界の恐怖」を描き出したその映像魔術は、今や映画史に燦然と輝く古典となっています。


あらすじ:偽りの羊飼いと、幼い兄妹

大恐慌時代のウエスト・ヴァージニア。刑務所で死刑囚から「大金の隠し場所」を暗示されたハリー・パウエル(ロバート・ミッチャム)は、出所後、死刑囚の未亡人ウィラ(シェリー・ウィンタース)に近づく。伝道師を装うハリーの魔の手から、幼い兄ジョンと妹パールは、父が遺した1万ドルを守ろうとする。

やがてウィラを殺害したハリーは、金の在処を知る子供たちをどこまでも執拗に追い詰める。小舟に乗って夜の川を逃げ下る子供たち。その背後から、不気味な讃美歌を口ずさみながら馬に乗った殺人鬼が迫る。絶体絶命の兄妹が辿り着いたのは、迷える子供たちを保護する老婦人レイチェル(リリアン・ギッシュ)の家だった。


レイチェルは、ハリーが聖書を引用しながら近づく偽善者であることを見抜き、銃を手に子供たちを守り抜く。闇夜の中で、ハリーとレイチェルが交互に讃美歌を歌い合う緊張感あふれる対峙の末、ハリーはついに警察に包囲され、逮捕される。

ハリーが連行される際、ジョンはそれまで必死に隠し続けてきた「1万ドルの秘密」を露わにする。その金は、妹パールの肌身離さず持っていた布製の人形の中に縫い込まれていたのだ。父との「決して大人に話さない」という約束に縛られ、大金という名の呪いを一人で背負ってきたジョンは、逮捕されるハリーにその金を投げつけ、むせび泣く。

父を失い、母を殺された過酷な逃避行の末、子供たちはレイチェルの温かな家でようやく安らぎを得る。クリスマス。ジョンは新しい「家族」の中で、重すぎる秘密から解放される。レイチェルがカメラに向かって語る「子供たちはたくましい。彼らは耐え忍ぶ(They abide)」という言葉とともに、悪夢のような夜は明けていく。


エピソード・背景

  • ロバート・ミッチャムの「LOVE/HATE」
    指の関節に刻まれた刺青は、映画史を象徴する最も有名なビジュアルの一つです。ミッチャムが演じたハリーは、悪魔的なカリスマ性と、時折見せる滑稽なまでの卑怯さが同居しており、彼のキャリア史上最高の演技と称されています。
  • 無声映画へのオマージュ
    監督のロートンは、グリフィスの無声映画を深く愛していました。そのため、グリフィスの愛弟子であるリリアン・ギッシュを「善」の象徴として起用。さらにアイリス・アウト(画面が円形に閉じる手法)など、サイレント時代の技法を効果的に取り入れています。
  • 水中撮影の衝撃美
    殺害されたウィラが車の中で湖底に沈んでいるシーンは、彼女の長い髪が水草のように揺れるあまりに美しい構図で、観客を戦慄させました。このシーンは、巨大なスタジオの水槽に沈めたセットで撮影されました。
  • 子供の視点を描くための「歪み」
    劇中のセットには、パース(遠近法)が極端に歪められたものが多くあります。これは、ロートン監督が「現実の風景ではなく、子供が恐怖に怯えた時に見る主観的な悪夢」を表現しようとしたためです。
  • 脚本家ジェームズ・エイジーの死
    原作の魅力を最大限に引き出した脚本家のエイジーですが、映画の公開を待たずに心臓発作で急逝しました。ロートンとの共同作業は、二人にとっての遺作としての意味合いも持つことになりました。
  • チャールズ・ロートンの挫折
    監督としての才能を酷評されたことに深く傷ついたロートンは、これ以降、舞台演出に専念するようになります。彼が遺した唯一の映画が、数十年後にこれほど崇拝されることになるとは、当時の誰も予想できませんでした。
  • 動物たちの幻想的なインサート
    子供たちが川を下るシーンで挿入されるクモの巣やカエルのクロースアップ。これらは物語の残酷さと対比される、自然界の静謐でどこか不気味な美しさを際立たせています。

まとめ:作品が描いたもの

本作は、大人の「欲望」と「偽善」という怪物に立ち向かう、子供たちの純粋な生命力を描いています。ハリーという悪役がまとう宗教的権威は、当時の社会に潜む欺瞞への鋭い批評でもありました。しかし、映画の核にあるのは、川面を滑る小舟のような静かな幻想性と、レイチェルが示した無償の愛です。闇は深く、恐ろしい。けれど、子供たちはその夜を生き延び、朝を迎える。ロートンが遺したこの唯一の傑作は、絶望の淵に咲いた、一輪の毒々しくも気高い花のような存在です。


〔シネマ・エッセイ〕

暗闇の向こうから、馬の蹄の音とともに聞こえてくる低い歌声。ロバート・ミッチャムの指先に刻まれた「HATE」の文字が、月光に照らされて不気味に浮かび上がります。この映画を観ていると、自分が幼い頃に感じた「大人の世界の底知れなさと理不尽な恐怖」が、冷たい水のように足元から這い上がってくるのを感じます。

湖底で揺れる髪、星空の下を流れる小舟。スタンリー・コルテスが捉えた光と影のコントラストは、恐ろしいはずの光景を、息を呑むほど美しいメルヘンへと昇華させています。

最後に見せるリリアン・ギッシュの、凛とした、けれど慈愛に満ちた眼差し。悪魔を追い払うのは、言葉の暴力ではなく、静かに、けれど決して折れない「守る者」の意志。夜が明けて、雪の降る家の中で子供たちが眠る時、私たちは自分たちの中に眠る「かつての子供」もまた、救われたような心地になるのです。この唯一無二の悪夢は、最後に必ず、柔らかな朝の光へと私たちを導いてくれるのです。

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