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めまい Vertigo 1958 |キャスト・あらすじ【ネタバレ】

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サンフランシスコの坂道に渦巻く、高所恐怖症の迷宮と執着。ヒッチコックが色彩とカメラワークで刻んだ、愛と強迫観念の極北。

高所恐怖症のため警察を辞めたスコティは、旧友から『亡霊に取り憑かれた』という妻マデリンの尾行を依頼される。サンフランシスコの街を彷徨う彼女を追ううちに、スコティは抗いようのない恋に落ちるが、悲劇的な死が二人を分かつ。

巨匠アルフレッド・ヒッチコックが、赤と緑の鮮烈な色彩と、映画史上初の『ズーム&トラックバック』手法を駆使して描き出した、偏執的な愛の深淵。

めまい
Vertigo
(アメリカ 1958)

[製作] アルフレッド・ヒッチコック/ジェームズ・C・カッツ/ハーバート・コールマン
[監督] アルフレッド・ヒッチコック
[原作] ピエール・ボアロ/トーマス・ナルスジャック
[脚本] アレック・コペル/サミュエル・A・テイラー
[撮影] ロバート・バークス
[音楽] バーナード・ハーマン
[ジャンル] スリラー/サスペンス/ミステリー
[受賞] サンセバスチャン国際映画祭 銀賞/主演男優賞(ジェームズ・スチュアート)

キャスト

ジェームズ・スチュアート
(ジョン・‘スコティ’・ファーガソン)

キム・ノヴァク
(マデリン・エルスター/ジュディ・バートン)

バーバラ・ベル・ゲドス (マージョリー・‘ミッジ’・ウッド)
トム・ヘルモア (ギャヴィン・エルスター)
ヘンリー・ジョーンズ (スコッティの担当医)
エレン・コービー (ホテルマネージャー)

受賞・ノミネートデータ

受賞年部門結果
1959第31回アカデミー賞美術賞(カラー部門)ノミネート
1959第31回アカデミー賞録音賞ノミネート
2012英国映画協会(BFI)史上最高の映画ベスト50第1位

評価

公開当時は興行的・批評的に振る舞わなかったものの、時を経て評価が逆転し、現在では『市民ケーン』を抜いて「映画史上最高の作品」の一位に選ばれることも多い不朽の傑作です。

単なる犯人探しを越え、人間の深層心理に潜む「死への誘惑」や、理想の女性像を他者に押し付ける「男性の支配欲」を冷徹に描き出しています。

バーナード・ハーマンによる円環状のうねるようなスコアと、サンフランシスコの霧がかった風景が、観る者をめまいの渦へと引き込みます。


あらすじ:尾行、恋、そして死の墜落

元刑事のスコティ(ジェームズ・スチュアート)は、犯人追跡中に高所恐怖症を発症し、同僚を死なせたショックから退職していた。

ある日、旧友エルスター(トム・ヘルモア)から、曾祖母の亡霊に憑りつかれたかのような不審な行動を繰り返す妻マデリン(キム・ノヴァク)の監視を頼まれる。

スコティはマデリンを尾行し、美術館や墓地を巡る彼女のミステリアスな美しさに魅了されていく。

彼女がサンフランシスコ湾に身を投げた際、スコティは彼女を救い出し、二人は急速に惹かれ合う。

しかし、マデリンは再び曾祖母の記憶に導かれるように、サン・フアン・バウティスタの教会の鐘楼へ駆け上がる。

高所恐怖症のために階段を登りきれないスコティの目の前で、マデリンは塔から墜落し、命を落としてしまう。


マデリンの死後、重度の抑鬱状態に陥ったスコティは、街で見かけたマデリンに瓜二つの女性ジュディに声をかける。

スコティは、ジュディの髪型や服装を死んだマデリンと全く同じに変えさせ、彼女を「死者の身代わり」に仕立て上げようと執着する。

実は、マデリンの死はエルスターによる巧妙な殺人計画だった。

ジュディこそがマデリンを演じていた愛人であり、高所恐怖症で塔に登れないスコティを目撃者に仕立てて、本物の妻を突き落としたのだ。

真実に気づいたスコティは、ジュディを連れて再び因縁の鐘楼へ登る。

恐怖を克服したスコティだったが、暗闇から現れた修道女の影に驚いたジュディは、足を踏み外して塔から転落死する。

スコティは再び愛する者を失い、ただ一人、塔の縁で呆然と立ち尽くす。


エピソード・背景

  • 「めまいショット」の誕生
    高い場所から見下ろした時のめまいを表現するため、カメラを後退させながらズームインする「ドリー・ズーム」という手法が初めて使われました。現在は『ジョーズ』など多くの映画で使われる技法です。
  • 色彩の象徴
    ヒッチコックは色彩を心理描写に用いました。マデリン(生と死の間)には「緑」を、スコティの情熱や危機には「赤」を配色し、ジュディがマデリンへと変身して現れるシーンの緑のネオン光は、映画史上最も美しい怪奇的な演出の一つです。
  • ジェームズ・スチュアートの起用
    「アメリカの良心」と呼ばれたスチュアートが、次第に狂気に満ちた執着を見せる男を演じたことは、当時の観客に大きな衝撃を与えました。
  • タイトル・デザイン
    巨匠ソール・バスによるオープニング映像は、瞳の中に渦巻きが広がるグラフィックで、映画のテーマである「円環」と「迷宮」を完璧に表現しています。
  • ヒッチコックの最高傑作
    本作はヒッチコック自身の「美への執着」が最も強く反映されたパーソナルな作品だと言われています。女性の服の色から手袋の種類まで、彼は細部まで徹底してコントロールしました。
  • サンフランシスコのロケ地
    コイト・タワーやパレス・オブ・ファイン・アーツなど、サンフランシスコの象徴的な場所が、悪夢のような幻想的な美しさで捉えられています。

まとめ:作品が描いたもの

本作は、失った過去を取り戻そうとする人間の無益な足掻きと、愛という名の支配を記録した悲劇でした。

スコティが追い求めたのは、マデリンという女性そのものではなく、自分が作り上げた「幻想」でした。その幻想が剥がれ落ち、真実と向き合った時、残されるのは癒えることのない喪失感だけです。

ヒッチコックは、サスペンスの枠を借りて、人間が抱く「永遠の美」への渇望と、それがもたらす破滅を、めまいのするような円環構造の中に閉じ込めたのです。


〔シネマ・エッセイ〕

サンフランシスコの坂道を、音もなく滑るように走る一台の車。スコティの視線の先にある、金髪を固く結い上げたマデリンの、透き通るようなうなじ。バーナード・ハーマンの音楽が、逃れられない運命のように重く、甘く響き渡ります。

ジュディをマデリンへと作り替えていくスコティの姿には、愛を超えた「狂気」が漂っています。美容室で髪を染めさせ、グレーのスーツを着せ、あの渦巻状の髪型を完成させた時、彼が求めていたのは愛の復活だったのか、それとも死者への冒涜だったのか。

霧の中から現れるマデリンの幻影、そしてラストシーンのあの冷たい沈黙。私たちは、スコティと共に何度もあの階段を登り、そして何度も突き落とされる。映画が終わった後も、頭の中にはあの緑色のネオンと、果てしない渦巻きが残り続け、世界が少しだけ歪んで見えるような気がするのです。


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