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ハムレット Hamlet 1948 |キャスト・あらすじ【ネタバレ】

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復讐に燃え、混迷の淵を彷徨う若き王子。ローレンス・オリヴィエが映画の魔法を注ぎ込んだ、シェイクスピア劇の至高の映像化。

『生きるべきか、死ぬべきか』。父王を暗殺し、その王座と王妃を奪った叔父への復讐を誓うデンマーク王子ハムレット。深い霧と影に包まれたエルシノア城を舞台に、狂気を装いながら真実を追い求める孤高の魂が、死の舞踏へと突き進んでいく。主演・監督を務めたローレンス・オリヴィエが、演劇の枠を超えたダイナミックなカメラワークと心理描写で、古典の最高峰をスリリングな映像文学へと昇華させた歴史的傑作。

ハムレット
Hamlet
(イギリス 1948)

[製作] ローレンス・オリヴィエ/レジナルド・ベック/アンソニー・ブッシュネル
[監督] ローレンス・オリヴィエ
[原作] ウィリアム・シェイクスピア
[脚本] ローレンス・オリヴィエ
[撮影] デズモンド・ディキンソン
[音楽] ウィリアム・ウォルトン
[ジャンル] ドラマ
[受賞]
アカデミー賞 主演男優賞(ローレンス・オリヴィエ)/美術監督賞/衣装デザイン賞/作品賞
英国アカデミー賞 オリジナル作品賞
ゴールデン・グローブ賞 作品賞/男優賞(ローレンス・オリヴィエ)
NY批評家協会賞 主演男優賞(ローレンス・オリヴィエ)
ヴェネチア映画祭 金獅子賞

キャスト

ローレンス・オリヴィエ
(ハムレット)

ジーン・シモンズ
(オフィーリア)

ジョン・ローリー (フランシスコ)
エスモンド・ナイト (ベルナルド)
アンソニー・クァイル (マルセラス)
ラッセル・ソーンダイク (神父)
ベイジル・シドニー (クローディアス王)
アイリーン・ハーリー (ガートルード女王)
ノーマン・ウーランド (ホレーショ)
フェリックス・アイルマー (ポローニアス)
テレンス・モーガン (レアティーズ)

受賞・ノミネートデータ

受賞年部門結果
1949第21回アカデミー賞作品賞受賞
1949第21回アカデミー賞主演男優賞(ローレンス・オリヴィエ)受賞
1949第21回アカデミー賞美術賞(白黒部門)受賞
1949第21回アカデミー賞衣裳デザイン賞(白黒部門)受賞
1948ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞

評価

非アメリカ映画として初めてアカデミー作品賞を受賞するという快挙を成し遂げた本作は、演劇をそのまま映画にするのではなく、映画独自の表現言語でシェイクスピアを再構築しました。縦の奥行きを極限まで活かした撮影技術と、迷宮のような城のセットを縦横無尽に動くカメラは、観客をハムレットの脳内へと誘うような没入感を生んでいます。

荘厳かつ不穏な旋律が、王子の苦悩と運命の足音をドラマチックに増幅させ、当時まだ新鋭だったジーン・シモンズの儚げなオフィーリア像も、悲劇の美しさを際立たせました。


あらすじ:亡霊の告発、揺れる復讐の剣

デンマークのエルシノア城。父王が急逝し、その弟クローディアス(ベイジル・シドニー)が王位に就き、母ガートルード(アイリーン・ハーリー)を妻に迎えるという異常な事態に、王子ハムレット(ローレンス・オリヴィエ)は深い憂鬱に沈んでいた。そこへ、父の亡霊が現れ、自分はクローディアスに毒殺されたのだと告げる。

復讐を誓ったハムレットは、周囲を欺くために狂気を装う。恋人オフィーリア(ジーン・シモンズ)さえも突き放し、真意を隠して機をうかがうが、彼の鋭すぎる知性と繊細な魂は「行動」と「思索」の間で激しく揺れ動く。やがて、旅役者による劇中劇で叔父の罪を確信したとき、運命の歯車は血塗られた悲劇へと一気に加速していく。


ハムレットは誤ってオフィーリアの父ポローニアス(フェリックス・アイルマー)を殺害し、そのショックでオフィーリアも川に身を投げて果てる。彼女の兄レアティーズ(テレンス・モーガン)はクローディアスと共謀し、剣術試合を装ってハムレットを毒剣で仕留めようとする。

試合の最中、毒入りの酒を誤って飲んだ母ガートルードが倒れ、レアティーズも毒剣で傷を負う。死に際にレアティーズから王の陰謀を聞かされたハムレットは、ついにクローディアスを刺し、復讐を果たす。しかし、ハムレット自身も毒が回り、親友ホレーショ(ノーマン・ウーランド)の腕の中で静かに息を引き取る。王家の血が絶えたエルシノア城に、新たな統治者の軍靴の音が響く中、高潔な王子の遺体は兵士たちの手で厳かに運ばれていく。


エピソード・背景

  • オリヴィエのこだわり
    ハムレットの「内面的な停滞」を視覚化するため、あえて白黒撮影を選び、陰影の深い「フィルム・ノワール」のようなルックを作り上げました。
  • 金髪のハムレット
    オリヴィエは役作りのために髪をブロンドに染め、これまでの「知的な黒髪」というハムレット像を覆す新鮮なビジュアルで挑みました。
  • 驚異のディープ・フォーカス
    手前の人物から奥の背景までピントを合わせた撮影により、城の巨大さと、そこで蠢く陰謀の密度が強調されています。
  • ジーン・シモンズの抜擢
    当時10代だった彼女の無垢な魅力が、狂気に沈むオフィーリアの悲劇をよりいっそう痛々しく見せました。
  • カットされた登場人物
    映画としてのテンポを重視し、ローゼンクランツとギルデンスターンといった主要な脇役をあえて登場させないという大胆な脚色が施されました。
  • ウィリアム・ウォルトンの傑作
    王の登場を告げるファンファーレから、ラストの葬送行進曲まで、音楽そのものがセリフと対等に物語を語っています。
  • 心理学的アプローチ
    ハムレットと母ガートルードの間にエディプス・コンプレックスを思わせる演出を取り入れ、物語に現代的な解釈を加えました。

まとめ:作品が描いたもの

本作は、一人の人間が抱える「決断できない苦悩」という普遍的なテーマを、迷宮のような映像空間の中に閉じ込めました。奥行きのある城の廊下や冷たい石壁は、逃げ場のないハムレットの精神状態そのものであり、そこで繰り返される自問自答は、人間の存在意義を問う哲学的な叫びとして響きます。

復讐という血の義務を果たしながらも、自らも滅んでいくその姿は、高潔すぎる魂がこの不条理な世界で生きることの限界を物語っており、ラストの葬送は、一人の孤独な知性がようやく手に入れた安らぎを象徴しています。


〔シネマ・エッセイ〕

深い影が落ちる城の回廊を、重い足取りで歩く王子の背中。独白の声が、まるで自分の頭の中で響いているかのような錯覚に陥ります。モノクロの画面の中で、揺れる霧や荒れ狂う海が、言葉にならない感情の激流を映し出しているようです。あの有名な「生きるべきか……」の問いが、これほどまでに切実で、物理的な重みを持って迫ってくるとは思いませんでした。

オフィーリアが川面に浮かび、ゆっくりと流されていく場面の、息を呑むような静謐な美しさ。冷たい水の感覚や、濡れたドレスの重みまでもが画面から伝わってくるようで、胸が締め付けられます。

映画が終わった後、部屋の空気が少しだけ冷え切ったような、重厚な余韻が残ります。正義を成すために失わなければならなかったもののあまりの多さ。独白が止んだ後のエルシノア城に流れる、虚無的な静寂。その冷たさの中にこそ、シェイクスピアが描こうとした、人間の気高さと愚かさの真実が潜んでいるような気がしてならないのです。

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