戦火が迫るリゾート地、眩しい太陽と死の影。束の間の歓楽に燃え上がる不赦の恋。

『鞄を持った女』や『ブーベの恋人』で知られるイタリア映画界の巨匠ヴァレリオ・ズルリーニ監督の出世作。第二次世界大戦下のイタリア高級リゾート地を舞台に、ファシスト高官の息子である青年と、戦死した海軍将校の年上の未亡人が落ちる許されざる恋を描く。美しくも悲しいニーノ・ロータによる音楽と、主演のエレオノラ・ロッシ・ドラゴ、ジャン=ルイ・トランティニャンの繊細な演技が光る青春と愛憎のドラマ。
激しい季節
Estate Violenta
(フランス・イタリア 1959)
[製作] リルヴィオ・クレメンテッリ
[監督] ヴァレリオ・ズルリーニ
[脚本] ヴァレリオ・ズルリーニ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ/ジョルジオ・プロスペリ
[撮影] ティノ・サントーニ
[音楽] マリオ・ナシンベーネ
[ジャンル] ドラマ/恋愛
キャスト

ジャン・ルイ・トランティニャン
(カルロ)

エレオノラ・ロッシ・ドラゴ
(ロベルタ)
ジャクリーヌ・ササール (ロッサーナ)
カティア・カーロ (ジェンマ)
リラ・ブリニョーネ (シニョーリナ)
ラフ・マッティオリ (ジュリオ)
エンリコ・マリア・サレルノ (カルロの父)
フェデリカ・ランチ (マッダレーナ)
受賞・ノミネートデータ
| 受賞年 | 賞 | 部門 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1960 | ナストロ・ディ・アルジェント賞(銀リボン賞) | 主演女優賞(エレオノラ・ロッシ・ドラゴ) | 受賞 |
| 1960 | ナストロ・ディ・アルジェント賞(銀リボン賞) | 音楽賞(ニーノ・ロータ) | 受賞 |
| 1960 | マール・デル・プラタ国際映画祭 | 最優秀作品賞 | ノミネート |
評価
ファシズム体制の崩壊と激化する大戦の影が迫る1943年夏という極限状態を背景に、現実から目を背け逃避的な歓楽に耽るブルジョワ階級の若者たちと、そこに生まれた過酷な愛を瑞々しく描いたイタリア映画の名作です。
モノクロームで捉えられた美しいビーチやダンスパーティーの風景と、突如として降り注ぐ空爆のコントラストが圧倒的な情緒を生み出し、ヴァレリオ・ズルリーニ監督の名を国際的に知らしめました。
あらすじ:リッジョーネの夏と逃避的な若者たち
1943年夏、戦争の暗雲が立ち込めるイタリア。アドリア海に面した高級リゾート地リッジョーネには、戦火を逃れた裕福な若者たちが集まり、連日ダンスやパーティに興じていた。ファシスト党高官の父を持つカルロ(ジャン=ルイ・トランティニャン)もまた、父親の威光を利用して徴兵を免れ、恋人のロッサーナ(ジャクリーヌ・ササール)らと退屈で享楽的な日々を過ごしていた。
ある日、ビーチに途惑いながら立ち入ってきた空軍機から幼い娘を庇ったことをきっかけに、カルロは年上の美しい女性ロベルタ(エレオノラ・ロッシ・ドラゴ)と出会う。ロベルタは海軍将校だった夫を戦死で失った厳格な未亡人であった。若く情熱的なカルロと、悲しみに暮れながらも女としての孤独を抱えるロベルタは、最初は反発し合いながらも急速に惹かれ合っていく。
ロッサーナをはじめとする周囲の視線や社会的な倫理観をよそに、二人の関係は歯止めが効かなくなり、激しい情熱へと変わっていく。カルロはロベルタのためにロッサーナと別れ、ロベルタもまた亡き夫の影と世間の目を捨ててカルロとの愛に身を投じることを決意する。
しかし、7月25日にムッソリーニ体制が崩壊し、事態は一変する。カルロの父親は失脚して逃亡し、カルロ自身にもついに赤紙(徴兵集会状)が届いてしまう。兵役から逃れようと焦るカルロのため、ロベルタは彼を連れて北部の別荘へと避難させようと列車に乗り込む。
二人が乗り込んだ避難列車は、激しさを増す戦火のなかでドイツ軍機の空襲に遭遇する。猛烈な爆撃と機銃掃射により、線路沿いの町は炎に包まれ、列車内は大混乱に陥る。極限の恐怖と凄惨な死の光景を目の当たりにしたカルロは、自らの逃避行動の愚かさと現実に直面し、呆然と佇む。
空襲が去った後、カルロはロベルタの手を放し、彼女をひとり列車に残して立ち去ることを決意する。自分がいつまでも子供のまま現実から逃げることはできないと悟ったカルロは、煙が立ち込める線路の向こう側へと歩き出し、二人の短い夏は永遠の終わりを迎えるのだった。
エピソード・背景
- ヴァルリオ・ズルリーニ監督の長編第2作
長編デビュー作『サンフレディアーノの娘たち』(1954年)に続く本作で、ズルリーニ監督は「個人的な恋愛ドラマと歴史的背景の融合」という独自のスタイルを確立し、世界的な評価を獲得しました。 - ニーノ・ロータによる哀愁のスコア
フェデリコ・フェリーニ作品で有名な名作曲家ニーノ・ロータが音楽を担当。サックスを中心とした甘く切ないメインテーマは映画音楽の古典として高く評価され、イタリアの銀リボン賞で音楽賞を受賞しました。 - エレオノラ・ロッシ・ドラゴの代表作
年上の未亡人という複雑なヒロインを情感豊かに演じたエレオノラ・ロッシ・ドラゴは、その格調高い美しさと演技力が絶賛され、数々の女優賞に輝きました。 - ジャン=ルイ・トランティニャンの国際的飛躍
前年の『危険な関係』(1959年)に続き、本作で気弱ながら情熱的な青年カルロを演じたトランティニャンは、フランスのみならずイタリア映画界でも不可欠な実力派スターとしての地位を確固たるものにしました。 - イタリア現代史の転換点を背景に
劇中で描かれる1943年7月25日は、ファシズム体制が崩壊し、イタリアが連合国への降伏とドイツ軍の侵攻というカオスへと突き進んだ歴史的重要な節目です。個人生活と国家の崩壊がシンクロするように描かれています。 - ジャクリーヌ・ササールのみずみずしい存在感
『三月生れ』(1958年)で一躍スターとなったジャクリーヌ・ササールが、主人公に捨てられる健気な若い恋人役で出演し、フレッシュな魅力を添えています。
まとめ:作品が描いたもの
戦争という時代の暴風が迫るなか、束の間の安全地帯で燃え上がった「大人と青年の許されざる恋」を通して、青春の終わりと現実への直面を描いた切ない人間ドラマです。現実逃避の甘美さと、それを容赦なく打ち砕く時代の残酷さが、アドリア海の美しい風景と共に鮮烈に刻まれています。
〔シネマ・エッセイ〕
眩しい海と日差し、夜の波音に合わせて流れるジャズ。スクリーンに広がるリゾートの光景は一見すると平和そのものですが、そのすぐ裏側には常に「死」と「破滅」の足音が潜んでいます。
社会の掟を破って重なり合うカルロとロベルタの姿は、崩壊していく世界の中で今この瞬間を確かめ合おうとする悲しい抵抗のようにも見えます。
終盤、燃えあがる列車の煙の中から静かにロベルタのもとを去っていくカルロの背中。それは、あまりにも遅すぎた「モラトリアムの終わり」であり、少年が大人にならざるを得なかった時代の悲劇を物語っています。夏の終わりの涼風のように、甘く苦い痛みをいつまでも余韻として残す傑作です。

