レックス・ハリソン
Rex Harrison

1908年3月5日、イギリス・ランカシャー生まれ。
1990年6月2日、アメリカ・ニューヨーク・マンハッタンで死去(膵臓癌)。享年82歳。
イギリスの名優。
リリー・パルマー等、生涯に6度の結婚をした。
今回は、磨き上げられたウィットと、英国俳優の真骨頂ともいえるエレガンスを武器に、銀幕と舞台の両方で王者の如く君臨した名優、レックス・ハリソンをご紹介します。
彼は、その洗練された身のこなしと、小気味よいセリフ回しから「英国流のエレガンスを体現する至宝と称えられました。特に『マイ・フェア・レディ』のヒギンズ教授役で見せた、傲慢でありながらもどこか憎めない知的な佇まいは、彼以外の俳優には到達できない唯一無二の境地です。
私生活では「セクシー・レックス」という異名を持つほど華やかで波乱に満ちた一面もありましたが、仕事に対しては冷徹なまでの完璧主義を貫き、演劇と映画の境界を軽やかに飛び越え続けた、不世出の伊達男でした。
研ぎ澄まされた機知と、不敵なるエレガンス。レックス・ハリソン、洗練の航跡
レックス・ハリソンの魅力は、絹のように滑らかな語り口と、皮肉を芸術の域まで高めた圧倒的な演技センスにあります。
彼は、観客を煙に巻くような軽妙なコメディから、歴史の重みを感じさせる重厚な劇まで、どんな役柄であっても「レックス・ハリソン」という独自の品格を失いませんでした。特に、歌うのではなく語るようにリズムを刻む「スポークン・ソング」の手法は、ミュージカルの世界に革命をもたらしました。
自らのスタイルを完璧に構築し、最後までスターとしての美学を貫き通したその姿は、英国が生んだ最高のエンターテイナーの一人として、今なお語り継がれています。
✦ PROFILE & BACKGROUND
- 本名:レジナルド・キャリー・ハリソン
- 生涯:1908年3月5日 ~ 1990年6月2日(享年82歳)
- 死因:膵臓癌(ニューヨークの自宅にて逝去)
- 出身:イギリス・ランカシャー州ハイトン
- ルーツ・家庭環境:
- 父ウィリアム:綿の仲買人。中産階級の安定した家庭で、レックスに英国紳士としての基礎的なマナーと教養を授けました。
- 母イーディス:レックスという愛称(ラテン語で王を意味する)を彼に与えたのは、息子の将来に「王者のような輝き」を予感していたからかもしれません。
- 背景:リヴァプールのカレッジで学んだ後、16歳でリヴァプール・レパートリー・シアターに参加。舞台で徹底的にセリフ術を磨き、1930年代から映画にも出演し始めました。第二次世界大戦中は空軍のレーダー担当として従軍し、戦後ハリウッドへと渡り、世界的なスターへと登り詰めました。
- 功績:1964年『マイ・フェア・レディ』でアカデミー主演男優賞を受賞。舞台でもトニー賞を2度受賞しており、1989年にはその功績からエリザベス女王より「ナイト」の称号を授与されました。
🏆 主な功績・活動
| 年 | 出来事 | 備考 |
| 1946 | 『アンナとシャム王』公開 | ハリウッド進出初期の成功作 |
| 1956 | 舞台『マイ・フェア・レディ』初演 | ブロードウェイで歴史的なロングランを記録 |
| 1963 | 『クレオパトラ』公開 | カエサル役でアカデミー主演男優賞にノミネート |
| 1964 | 映画『マイ・フェア・レディ』公開 | アカデミー主演男優賞を受賞。キャリアの絶頂 |
| 1967 | 『ドリトル先生不思議な旅』公開 | 動物と話せる医師役をチャーミングに演じる |
1. 傲慢な知性の結末:マイ・フェア・レディ(1964)
彼を語る上で欠かせない代表作。下町の娘を貴婦人に育て上げるヒギンズ教授を、舞台に続いて演じました。女性を学問の対象としてしか見ない冷徹さと、次第に自分の感情に戸惑う滑稽さ。歌唱力に不安があった彼は、セリフを音楽に乗せて語る独自の手法を確立し、世界を熱狂させました。
2. 王者の品格:アンナとシャム王(1946)
アイリーン・ダン演じる家庭教師と対立するシャム王を演じました。野性的でありながら、国を想う強い責任感を秘めた王。東洋の王という難しい役柄を、持ち前の気品と鋭い知性で、単なるステレオタイプに終わらせない深みのあるキャラクターに仕立て上げました。
3. 歴史の重圧:クレオパトラ(1963)
エリザベス・テイラー主演の歴史超大作。彼は知略に長けた英雄ユリウス・カエサルを演じました。リチャード・バートンら豪華キャストの中でも、彼の演じたカエサルは最も「知的で威厳がある」と高く評価され、作品に確かな格調をもたらしました。
4. 幽霊との対話:幽霊と未亡人(1947)
海辺の館に住み着いた海の荒くれ者、ダニエル船長の幽霊を演じました。乱暴な口調ながら、孤独な未亡人に寄せる不器用な優しさ。彼の持つ男性的な色気とコメディ・センスが絶妙にブレンドされた、ファンに非常に人気の高い一作です。
5. 陽気な空想家:ドリトル先生不思議な旅(1967)
動物と話ができる心優しい医師を演じました。巨大なカタツムリや空飛ぶ蛾が登場するファンタジーの世界でも、彼の洗練された語り口は健在。子供向けの物語を、大人が鑑賞しても耐えうる上質なエンターテインメントへと昇華させました。
6. 最後の情熱:哀愁の湖(1945)
ジーン・ティアニー共演。美しい妻の狂気に満ちた愛に翻弄される作家を演じました。彼のキャリア初期における貴重なミステリーであり、スマートな紳士が徐々に恐怖に侵食されていく過程を、抑制の効いた演技で表現しています。
📜 レックス・ハリソンを巡る知られざるエピソード集
1. 「セクシー・レックス」の光と影
その端正な容姿と女性への紳士的な振舞いから「セクシー・レックス」と呼ばれ、生涯で6度の結婚を経験しました。しかし、その華やかさの裏には、女優キャロル・ランディスの悲劇的な自殺など、彼の心を深く傷つけた出来事もありました。そんな波乱の私生活すらも、彼の演技に宿る「憂い」や「深み」の源泉となっていたのかもしれません。
2. 「歌わない」ことで革命を起こした
『マイ・フェア・レディ』の際、彼はメロディを正確に歌うのではなく、リズムに合わせてセリフを喋る「シュプレヒゲザング」のような手法を採用しました。これは彼が自分の歌唱力に自信がなかったからこその苦肉の策でしたが、結果としてキャラクターの知性をより際立たせることになり、ミュージカルの新しい表現方法として定着しました。
3. 完璧主義者としての鋭さ
彼は衣装の着こなしやセリフの間合いに対して、異常なまでのこだわりを持っていました。自分のスーツの裁断が1ミリでも狂っていると納得せず、撮影現場でも完璧なリズムを求めました。その緻密な計算こそが、スクリーンでの「余裕たっぷりな姿」を支えていたのです。
4. 現場の「気難しい王様」
仕事に対する厳しさゆえに、共演者やスタッフからは「気難しい」と恐れられることもありました。特に、自分のプロ意識に届かない相手には容赦がありませんでした。しかし、それは作品をより良くしたいという情熱の裏返しであり、一度彼に認められれば、これほど頼もしい共演者はいなかったといいます。
5. ナイトの称号と「リヴァプールの誇り」
1989年、がんとの闘病中であったにもかかわらず、エリザベス女王からナイトの称号を授与される式典に臨みました。英国演劇界の最高峰としての誇り。彼は病を隠し、背筋を伸ばして女王の前に立ちました。最後まで「英国紳士」としての美学を貫き通した、彼の人生最後の名演でした。
6. 死の直前まで舞台の上に
1990年、亡くなるわずか3週間前まで、彼はブロードウェイの舞台『サークル』に出演し続けていました。膵臓癌による激痛に耐えながらも、幕が上がれば完璧なセリフとウィットを観客に届けました。「役者は舞台の上で死ねれば本望だ」という言葉を地で行くような、凄まじい執念の役者魂でした。
📝 まとめ:洗練の極致を走り抜けた、永遠の伊達男
レックス・ハリソンは、研ぎ澄まされた知性とエレガンスを武器に、銀幕に漂う品格を誰よりも鮮やかに体現した人物でした。
たとえ傲慢な役柄であっても、そのセリフ一つひとつに宿るウィットと、完璧な身のこなしが、観る者を惹きつけて離さない。そんな唯一無二のカリスマ性こそが、彼の真骨頂といえます。美学に殉じ、一人の表現者として「洗練」を貫き通したその佇まいは、観る者に大人の余裕と知的な愉しみを与え続けました。自らのスタイルを王道へと押し上げ、華麗に演じ切った、情熱と矜持に満ちた映画人生を象徴するスターでした。
[出演作品]
1936 年 28 歳
男は神に非ず Men Are Not Gods
1937 年 29 歳
茶碗の中の嵐 Storm in a Teacup
1938 年 30 歳
セント・マーティンの小径 St. Martin’s Lane
城砦 The Citadel
1939 年 31 歳
月のかなたに Over the Moon
1940 年 32 歳
ミュンヘンへの夜行列車 Night Train to Munich
1945 年 37 歳
陽気な幽霊 Blithe Sprit
大空に散る恋 I Live in Grosvenor Square
艶(いろ)ごと師 The Rake’s Progress
1946 年 38 歳
アンナとシャム王 Anna and the King of Siam
1947 年 39 歳
1948 年 40 歳
1954 年 46 歳
獅子王リチャード King Richard and the Crusaders
1955 年 47 歳
完全なる良人 The Constant Husband
1960 年 52 歳
誰かが狙っている Midnight Lace
1961 年 53 歳
楽しい泥棒日記 The Happy Thieves
1963 年 55 歳
1964 年 56 歳
アカデミー賞主演男優賞
ゴールデングローブ賞主演男優賞
1965 年 57 歳
華麗なる激情 The Agony and the Ecstasy
1966 年 58 歳
1967 年 59 歳
1968 年 60 歳
パリの秘めごと A Flea in Her Ear
1969 年 61 歳
ふたりは恋人 Staircase
1977 年 69 歳
王子と乞食 Crossed Swords
1979 年 71 歳
泥棒も命がけ/1214カラット Shalimar
アシャンティ Ashanti
1983 年 75 歳
タイム・トゥ・ダイ ~地獄から帰った男~ A Time to Die
ザ・キングフィッシャー/黄昏に恋して The Kingfisher (TV)
1986 年 78 歳
アナスタシア/光・ゆらめいて Anastasia: The Mystery of Anna (TV)









