オーソン・ウェルズ
Orson Welles

1915年5月6日、アメリカ・ウィスコンシン生まれ。
1985年10月10日、ハリウッドで死去(心臓発作)。享年70歳。
本名ジョージ・オーソン・ウェルズ。
早くから演出家・俳優として活躍し、監督としても一流。
ラジオドラマ「火星人襲来」で全米をパニックに陥れた。
リタ・ヘイワースと離婚。
今回ご紹介するのは、弱冠25歳にして映画史を塗り替える金字塔を打ち立て、そのあまりに巨大な才能ゆえにハリウッドという枠組みに収まりきらなかった孤高の天才、オーソン・ウェルズです。
彼は、ラジオ、演劇、そして映画のすべてにおいて革命を起こした「恐るべき子供(アンファン・テリブル)」でした。パンフォーカスや独創的なアングル、音響の重層的な使用など、彼が映画に持ち込んだ技法の数々は、現代映画の文法そのものを形作ったと言っても過言ではありません。自身の芸術的ヴィジョンを一切妥協せず、スタジオの権力と戦い続けたその姿は、破滅的なまでに情熱的な「表現者の呪い」を体現しているようでもあります。巨体から放たれる圧倒的な存在感と、雷鳴のようなバリトンボイスで銀幕を支配した、映画史上最大の巨人です。
崩れゆく帝国の王と、永遠の放浪。オーソン・ウェルズ、未完の天才
オーソン・ウェルズの魅力は、一画面に収まりきらないほどのバロック的な過剰さと、権力の頂点から転落していく人間の悲哀をえぐり出す冷徹な知性にあります。
彼は、自身を投影したかのような「肥大化した自尊心を持つ男」を演じ、描き続けることで、アメリカン・ドリームの虚無を暴き出しました。現場では俳優、監督、脚本、製作のすべてを掌握し、既存のルールを破壊しては新たな美学を構築しましたが、その完璧主義ゆえに多くの作品が未完に終わるという悲劇も背負いました。しかし、その断片でさえも他の追随を許さない輝きを放っており、彼が遺した映像の一齣一齣には、映画という魔法を信じ抜いた男の執念が刻まれているのです。
- ✦ PROFILE & BACKGROUND
- 🏆 主な受賞リスト
- 1. 映画史の特異点:市民ケーン
- 2. 崩壊する家族の挽歌:偉大なるアンバーソン家の人々
- 3. 鏡の中の迷宮:上海から来た女
- 4. 闇と腐敗の迷宮:悪の紋章
- 5. シェイクスピアの魂を射抜く:フォルスタッフ
- 📜 オーソン・ウェルズを巡る知られざるエピソード集
- 📝 まとめ:自らの宇宙を創造し続けた映画人生
- 1933 18歳
- 1941 26歳
- 1942 27歳
- 1943 28歳
- 1943 28歳
- 1946 31歳
- 1947 32歳
- 1948 33歳
- 1949 34歳
- 1950 35歳
- 1951 36歳
- 1954 39歳
- 1955 40歳
- 1956 41歳
- 1958 43歳
- 1959 44歳
- 1960 45歳
- 1962 47歳
- 1963 48歳
- 1964 49歳
- 1965 50歳
- 1966 51歳
- 1967 52歳
- 1968 53歳
- 1969 54歳
- 1970 55歳
- 1971 56歳
- 1972 57歳
- 1973 58歳
- 1974 59歳
- 1976 61歳
- 1977 62歳
- 1979 64歳
- 1984 69歳
- 1986 70歳
- 1992 40歳(1955~未完成)
- 2018 55歳(1970~未完成)
✦ PROFILE & BACKGROUND
- 本名:ジョージ・オーソン・ウェルズ
- 生涯:1915年5月6日 ~ 1985年10月10日(享年70歳)
- 出身:アメリカ・ウィスコンシン州ケノーシャ
- 背景:神童として育ち、劇団「マーキュリー劇場」を結成。1938年のラジオ放送『宇宙戦争』で全米をパニックに陥れ、その悪名と共にハリウッドへ招聘されました。
- 功績:1941年に『市民ケーン』を発表。1970年にはアカデミー名誉賞を受賞。後世の監督たち(スコセッシ、スピルバーグ、デ・パルマ等)に計り知れない影響を与えた、映画作家のなかの映画作家です。
🏆 主な受賞リスト
| 年 | 賞 | 部門 | 対象作 |
| 1941 | アカデミー賞 | 脚本賞 | 市民ケーン |
| 1952 | カンヌ国際映画祭 | パルム・ドール | オセロ |
| 1970 | アカデミー賞 | 名誉賞 | 映画製作への類稀なる貢献 |
| 1975 | AFI | 生涯功労賞 | アメリカ映画界への多大なる功績 |
1. 映画史の特異点:市民ケーン
新聞王の生涯を、一人の記者が「ローズバッド(バラのつぼみ)」という最期の言葉の謎を追う形式で描いた、映画史上最高の傑作の一つです。
ウェルズは若干25歳で監督・製作・脚本・主演を兼任。ディープ・フォーカス(パンフォーカス)や重層的な音響、斬新な時間構成など、当時の映画技術のすべてを刷新しました。あまりに完成度が高すぎたために業界の反発を招きましたが、この一作がなければ現代映画は存在しなかったと言われるほどの衝撃作です。
2. 崩壊する家族の挽歌:偉大なるアンバーソン家の人々
自動車産業の台頭によって没落していく名家の姿を、流麗なカメラワークと深い叙情性で描き出した文芸大作です。
ウェルズ本人が「『市民ケーン』よりも優れている」と自負した自信作でしたが、不在中にスタジオによって勝手に再編集され、結末を書き換えられるという悲劇に見舞われました。しかし、残された映像だけでも、失われゆく時代への哀切が満ち溢れた、痛切な美しさを湛えています。
3. 鏡の中の迷宮:上海から来た女
当時の妻リタ・ヘイワースを主演に迎え、彼女のトレードマークだった赤髪をブロンドのショートカットにするという大胆な演出で話題を呼んだフィルム・ノワールです。
クライマックスの「鏡の回廊」での銃撃戦は、視覚的なトリックと心理的な混乱が見事に融合した、映画史に残る名シーン。ウェルズの持つ、視覚的な遊び心と人間の本質への不信感が交錯する、スタイリッシュな一篇です。
4. 闇と腐敗の迷宮:悪の紋章
メキシコ国境の町を舞台に、汚職警官(ウェルズ)と麻薬捜査官(チャールトン・ヘストン)の対決を描いたノワールの極致です。
冒頭、約3分半に及ぶ驚異的な長回しのワンカットは、観客を瞬時に緊張の渦へと引き込みます。ウェルズ演じる老醜漂う警官の姿は、正義と悪の境界が崩れた世界を体現しており、彼のハリウッド復帰作にして、最高潮の演出力を示した傑作です。
5. シェイクスピアの魂を射抜く:フォルスタッフ
シェイクスピアの複数の戯曲から、騎士フォルスタッフというキャラクターを抽出し、一編のドラマとして再構築した、ウェルズ晩年の野心作です。
低予算ながら、その創意工夫と圧倒的な編集技術、そしてウェルズ自身の慈愛に満ちた熱演によって、古典に新たな命を吹き込みました。ウェルズが最も愛したキャラクターを通じて、人間の滑稽さと愛おしさを描き切った、彼の芸術的到達点です。
📜 オーソン・ウェルズを巡る知られざるエピソード集
1. 華麗なる恋愛遍歴
ウェルズの私生活で最も有名なのは、1943年に「銀幕の女神」リタ・ヘイワースと結婚したことです。ハリウッドの神童と絶世の美女という組み合わせは世界中の注目を浴びましたが、仕事に没頭し、型破りな生活を送るウェルズとの結婚生活は長くは続きませんでした。しかし、離婚後も二人の絆は深く、1947年の『上海から来た女』では監督と主演として協力し、リタの新たな魅力を引き出しました。
その後も、イタリアの女優パオラ・モリと結婚するなど、常に情熱的で波乱に満ちた恋愛を繰り返しながら、自らの創作の糧にしていきました。
2. ラジオ放送でアメリカをパニックに
1938年、ラジオドラマ『宇宙戦争』で、火星人が来襲したというニュースを本物そっくりの速報形式で演出し、信じ込んだ聴衆を全米規模でパニックに陥れました。この騒動により、彼は「最も危険で刺激的な若き才能」としてハリウッドから破格の条件(編集権の譲渡など)を提示されることになったのです。
3. 「ローズバッド」のモデルを巡る因縁
『市民ケーン』のモデルとなった実在の新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストは、この映画に激怒し、上映中止やネガの廃棄を画策しました。劇中のキーワード「ローズバッド(バラのつぼみ)」が、ハーストの愛人の隠語であったという説もあり、ウェルズの恐れ知らずな知性が権力を本気で怒らせた歴史的事件となりました。
4. 俳優としての「食いぶち」
監督作への資金を稼ぐために、彼は俳優として数多くの作品に出演しました。代表的なのは『第三の男』のハリー・ライム役です。わずかな出演時間ながら、観覧車での名台詞「スイスには500年の平和があったが、何を生んだ?鳩時計だけだ」を自ら書き加え、映画の主役を完全に食ってしまうほどの存在感を示しました。
5. 未完の傑作たちの亡霊
ウェルズは生涯、多くの企画を立ち上げ、撮影を始めながらも、資金難やスタジオとの対立で完成させられなかった作品が数多くあります。死後30年以上経ってからようやく完成・公開された『風の向こう側』のように、彼の「未完の夢」は今なお映画界を彷徨い続け、その呪縛のような魅力で人々を引きつけています。
6. 孤独な巨人の幕引き
1985年、ハリウッドの自宅でタイプライターに向かったまま息を引き取っているのが発見されました。最後の最後まで、彼は映画の構想を練り、言葉を紡いでいました。自らの才能を切り売りしながらも、魂の核心だけは決して売らなかったその人生は、まさに自らが描いた悲劇の王たちのように、孤独で、しかし計り知れない威厳に満ちたものでした。
📝 まとめ:自らの宇宙を創造し続けた映画人生
オーソン・ウェルズは、映画というキャンバスに自らの肥大した自意識と革命的な技法を叩きつけ、誰にも真似できない壮大な宇宙を築き上げた怪物でした。
その歩みは、若くして手にした万能感と、それゆえに味わった挫折、そして生涯にわたる放浪と創作への執念が交錯する、あまりに劇的なプロセスでもありました。トップスターとの恋やハリウッドとの対決を通じて、彼は常に「人間とは何か、権力とは何か」という問いを、視覚の魔術によって問い続けました。
70歳で幕を閉じたその生涯は、銀幕に残された数々の驚異的な映像と、未だ果たされぬ夢の断片に彩られた、ひとつのあまりに巨大な俳優としての映画人生でした。
[監督・出演作品]
1933 18歳
十二夜 Twelfth Night (監・出)
1941 26歳
アカデミー賞脚本賞
1942 27歳
1943 28歳
1943 28歳
1946 31歳
離愁 Tomorrow is Forever (出)
1947 32歳
1948 33歳
マクベス Macbeth (製・監・脚・出)
1949 34歳
第三の男 The Third Man (脚・出)
狐の王子 Prince of Foxes (出)
1950 35歳
1951 36歳
オセロ The Tragedy of Othello: The Moor of Venice (製・監・脚・出)
1954 39歳
ナポレオン Napoleon (出)
1955 40歳
アーカディン/秘密調査報告書(秘められた過去) Mr. Arkadin (製・監・脚・出)
1956 41歳
1958 43歳
1959 44歳
1960 45歳
鏡の中の犯罪 Crack in the Mirror (出)
1962 47歳
1963 48歳
1964 49歳
マルコ・ポーロ大冒険 Malco Polo (出)
1965 50歳
オーソン・ウェルズのフォルスタッフ Chimes at Midnight (監・脚・出)
1966 51歳
わが命つきるとも A Man for All Seasons (出)
パリは燃えているか Paris Brûle-t-il? (出)
1967 52歳
007/カジノロワイヤル Casino Royale (出)
ジブラルタルの追想 A Sailor from Gibraltar (出)
明日に賭ける I’ll Never Forget What’s is Name (出)
1968 53歳
非情の切り札 House of Card (出)
1969 54歳
サファリ大追跡 The Shouthern Star (出)
1970 55歳
クレムリン・レター/密書 The Klemlin Letter (出)
004/アタック大作戦 Two Times Two (出)
キャッチ22 Catch-22 (出)
1971 56歳
十日間の不思議 La decade prodigieuse (出)
1972 57歳
宝島 Treasure Island (出)
ウィッチング Necromancy (出)
1973 58歳
風雪の太陽 Sutjeska (脚)
オーソン・ウェルズ劇場 Orson Welles’ Great Mysteries (TV)
1974 59歳
そして誰も居なくなった And Then There Were None (声)
1976 61歳
さすらいの航海 Voyager of the Damned (出)
1977 62歳
クリスマスの出来事 It Happened One Christmas (出)
1979 64歳
マペットの夢みるハリウッド The Muppet Movie (出)
1984 69歳
トニー・カーチスの発明狂時代 Where is Parsifal (出)
1986 70歳
トランスフォーマー ザ・ムービー Transformers The Movie (出)
1992 40歳(1955~未完成)
ドン・キホーテ Don Quxote (製・監・脚・出)
2018 55歳(1970~未完成)
風の向こうへ The Other Side of the Wind (監・脚)




























