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ミスタア・ロバーツ Mister Roberts 1955 |キャスト・あらすじ【ネタバレ】

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止まった時間、揺れるヤシの木。退屈な日常を「自由」への戦いに変えた、ある副長の誇りと友情。

第二次世界大戦末期、戦火から遠く離れた太平洋を航行する米海軍の貨物船リラ・ベル号。そこには、規律に執着し休暇を一切認めない強権的な船長と、前線への転属を願いながらも乗組員たちの精神的支えとなっている副長ロバーツの静かな対立があった。

退屈に喘ぐ乗組員たちのために、そして己の信念のために、ロバーツが仕掛けた賭けと、その先に待つ感動の結末を描いた海軍コメディの傑作。

ミスタア・ロバーツ
Mister Roberts
(アメリカ 1955)

[製作] リーランド・ヘイワード
[監督] ジョン・フォードマーヴィン・ルロイ
[原作] トーマス・ヘッゲン/ジョシュア・ローガン
[脚本] フランク・ニュージェント/ジョシュア・ローガン
[撮影] ウィントン・C・ホック
[音楽] フランツ・ワックスマン
[ジャンル] コメディ/ドラマ/戦争
[受賞] アカデミー賞 助演男優賞(ジャック・レモン)

キャスト

ヘンリー・フォンダ
(ダグ・A・ロバーツ)

ジャック・レモン
(フランク)

ベッツィ・パーマー (アン・ジラード)
ウォード・ボンド (ダウディ)
フィリップ・キャリー (マニオン)
ニック・アダムス (レバー)
ペリー・ロペス (ロドリゲス)

受賞・ノミネートデータ

受賞年部門結果
1956第28回アカデミー賞助演男優賞(ジャック・レモン)受賞
1956第28回アカデミー賞作品賞・録音賞ノミネート

評価

ブロードウェイでロングランを記録した傑作戯曲を、豪華キャストで映画化した作品です。戦時中でありながら「戦闘」を直接描かず、閉鎖された船内での人間関係と、権力への抵抗という普遍的なテーマを扱った点が独創的とされています。

ヘンリー・フォンダの誠実な演技、ジェームズ・キャグニーの偏執的な船長役、そしてジャック・レモンの軽妙なコメディ・センスが見事に融合。ジョン・フォードからマーヴィン・ルロイへの監督交代劇という困難を乗り越え、批評的にも興行的にも大成功を収めました。


あらすじ:リラ・ベル号の終わらない夏

貨物輸送船リラ・ベル号の副長ロバーツ(ヘンリー・フォンダ)は、単調な輸送任務に明け暮れる日々に焦燥を感じ、前線部隊への転属願を出し続けていた。しかし、彼の有能さに依存する強欲な船長(ジェームズ・キャグニー)は、それをことごとく却下する。

船内では、上陸休暇を奪われた乗組員たちの不満が限界に達していた。ロバーツは、自らの転属願を二度と出さないという条件と引き換えに、船長に部下たちの休暇を認めさせるという密約を交わす。何も知らない乗組員たちは、突然の休暇に歓喜するが、その後、以前のような覇気を失い、船長に恭順するようになったロバーツの姿に失望し、彼を「裏切り者」と誤解し始める。


やがて、ロバーツが自分たちのために自分自身の夢を犠牲にしたことを知った乗組員たちは、深い感謝と尊敬の念を抱く。彼らは密かに、偽造した転属命令書を作成し、ロバーツを念願の前線へと送り出す。旅立つロバーツに、彼らは「最高の副長」として手作りの勲章を贈った。

しかし、前線に赴いたロバーツから届いた最後の手紙には、戦果ではなく、共に過ごしたリラ・ベル号の仲間たちへの深い愛情が綴られていた。手紙が届いた直後、彼は沖縄近海での戦闘により戦死したという報せが入る。悲しみに暮れる乗組員たちだったが、パルヴァー少尉(ジャック・レモン)がロバーツの遺志を継ぎ、独裁的な船長に対して反旗を翻すところで物語は終わる。



エピソード・背景

  • 監督交代の背景
    当初はジョン・フォードがメガホンを取っていましたが、主演のヘンリー・フォンダとの解釈の違いから激しい衝突が起こり、フォードが降板。その後をマーヴィン・ルロイが引き継ぎ、ジョシュア・ローガンが補佐することで完成に漕ぎ着けました。
  • ジャック・レモンの出世作
    本作のパルヴァー少尉役でアカデミー助演男優賞を受賞したジャック・レモンは、これを機にハリウッドを代表するコメディ俳優としての地位を確立しました。彼が演じた、要領が良くも憎めないキャラクターは映画に大きな活力を与えています。
  • ヘンリー・フォンダの執念
    舞台版で同役を3年間にわたり演じ続けてきたフォンダにとって、ロバーツは特別な役でした。映画化にあたっても、舞台の持つ誠実な精神を損なわないよう、一切の妥協を許さなかったと言われています。
  • ウィリアム・パウエルの引退作
    知的な軍医を演じた名優ウィリアム・パウエルは、本作を最後に映画界を引退しました。彼の落ち着いた演技が、騒々しい船内における良心の声として機能しています。
  • ヤシの木の象徴
    船長が丹精込めて育てている「ヤシの木」は、彼の権威の象徴であり、同時に乗組員たちにとっては忌まわしい抑圧の象徴です。これが海に投げ捨てられるシーンは、映画における最高のカタルシスの一つとなっています。
  • ヘリテージ・コメディ
    軍隊内の不条理を笑いに変える手法は、後の『M★A★S★H マッシュ』などの作品にも影響を与えたと言われており、戦争映画の新しい切り口を提示しました。

まとめ:作品が描いたもの

本作は、軍隊という巨大な組織の中で、個人の尊厳と自由をいかに守り抜くかという葛藤を、ユーモアと哀愁を交えて解説したドラマです。前線での武勲を夢見る副長が、最終的に「自分を必要としている仲間」のために自己犠牲を払うプロセスを主軸に展開します。

ジョン・フォードとマーヴィン・ルロイは、狭い輸送船内での権力構造を擬人化して描き、戦時下における日常の戦いがいかに気高いものであるかを、確かなリアリズムを交えて描き出しました。


〔シネマ・エッセイ〕

どこまでも続く青い海と、停滞した空気。リラ・ベル号に流れる時間は、戦場のそれとは異なる残酷な退屈に支配されています。その中で、ヘンリー・フォンダ演じるロバーツが見せる、窓の外を見つめる横顔。そこには、自分の能力を正しく使いたいという渇望と、部下たちへの深い慈愛が同居しています。

ジェームズ・キャグニーの滑稽なまでの傲慢さと、ジャック・レモンの軽やかな臆病さ。個性豊かな面々がぶつかり合う中で、ロバーツが密かに交わした「悪魔の契約」は、男の友情の究極の形と言えるでしょう。自分が軽蔑されることを受け入れてまで守りたかったもの。それは、若者たちの笑顔という、戦争が最も容易に奪い去る宝物でした。

ラストに届く手紙の文面が、私たちの胸に熱く迫ります。英雄的な死ではなく、共にふざけ合い、怒った日々こそが真実だった。パルヴァーがヤシの木を投げ捨て、船長に向かって歩き出す背中に、ロバーツの魂が受け継がれた瞬間を感じます。勇気とは、戦場にあるだけでなく、日常の理不尽に立ち向かう心の中にも宿っているのだと、潮風と共に教えてくれる不朽の名作です。

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