ミレーユ・バラン
Mireille Balin

1911年7月20日、モナコ・モンテカルロ生まれ。
1968年11月8日、フランス・パリで死去。享年57歳。
モデルを経て、22歳の時スクリーン・デビュー。
「望郷」が代表作。
今回は、1930年代のフランス映画界で、その陶酔的な美しさとあまりにも過酷な運命から「悲劇のクール・ビューティー」と呼ばれた女優、ミレーユ・バランをご紹介します。
彼女は、ジャン・ギャバンの相手役として『望郷』で見せた、都会的で冷ややかな美貌によって一躍トップスターとなりました。しかし、第二次世界大戦という時代の荒波に呑み込まれ、その華々しいキャリアは一瞬にして崩れ去ってしまいます。銀幕での輝きと、戦後のあまりに孤独な晩年のコントラストは、フランス映画史における最も切ない物語の一つです。
氷の微笑と炎の運命。ミレーユ・バラン、カスバに消えた幻の女神
ミレーユ・バランの魅力は、見る者を射すくめるような鋭い眼差しと、完璧に整った顔立ちが生み出す「冷たい色気」にありました。
彼女は、単なる美しいヒロインではなく、どこか謎めいた、手の届かない存在として映画界に君臨しました。しかし、ナチス占領下のパリでドイツ将校と恋に落ちたことが、彼女の運命を決定的に狂わせます。戦後、国民的な憎悪の対象となり、華やかな世界から永久に追放された彼女の人生は、まさに彼女自身が演じた映画のような「詩的リアリズム」そのものでした。
✦ PROFILE & BACKGROUND
- 本名:ブランシュ・ミレーユ・セザール・バラン
- 生涯:1909年7月20日 ~ 1968年11月9日(享年59歳)
- 出身:モナコ・モンテカルロ
- 背景:高級ブティックのモデルを経て、映画界へ。ジュリアン・デュヴィヴィエ監督に見出され、ジャン・ギャバンの相手役としてトップスターの仲間入りを果たしました。しかし戦後、対独協力の罪を問われ、晩年は極貧と孤独の中で過ごしました。
- 功績:1930年代フランス映画における「ファム・ファタール(宿命の女)」の象徴的な存在。彼女の気品ある美しさは、当時のファッション界にも大きな影響を与えました。
永遠の恋人:望郷
パリから観光でカスバへやってきた洗練された貴婦人ギャビーを熱演。ジャン・ギャバン演じるペペが、死を賭してまで追い求めた「パリの象徴」としての美しさは、今もなお伝説です。彼女の冷徹なまでの美貌があったからこそ、この物語の悲劇性は完成されました。
2. 官能の旋律:愛欲
同じくギャバンと共演したスペインを舞台にした作品。都会の孤独を抱えた女性を演じ、そのミステリアスな存在感で観客を魅了しました。デュヴィヴィエ監督は、彼女の持つ「現実離れした高貴さ」を最大限に引き出し、銀幕の女神へと昇華させました。
🎭 トップスター同士の華麗なる恋愛遍歴
1. ジャン・ギャバン:銀幕最強のカップル、その秘められた愛
『望郷』や『愛欲』で共演した際、フランス映画界の頂点にいたジャン・ギャバンと熱烈な恋に落ちました。二人は当時、誰もが羨む「フランスの顔」同士でしたが、性格の不一致から破局。この別れが、後に彼女を孤独へと追いやり、悲劇的な選択へと向かわせた一因とも言われています。
2. ティノ・ロッシ:黄金時代の寵児たちによる「束の間の夢」
1930年代後半、シャンソン界のトップスターであり俳優としても絶大な人気を誇ったティノ・ロッシと交際。当代随一の美男美女カップルとして、当時のマスコミを騒がせました。二人の華やかな交際は、暗い戦争の足音が忍び寄る前の、フランス映画黄金期が最後に見せた「華麗なる夢」のようでした。
📜 ミレーユ・バランを巡る珠玉のエピソード集
1. 「パリの香り」を纏ったモデル時代
彼女は映画デビュー前、ジャン・パトゥなど一流メゾンのモデルとして活躍していました。その歩き方やドレスの着こなし、そして気品ある仕草はすべてモデル時代に培われたものであり、それが銀幕での「高嶺の花」としての説得力を生みました。
2. 時代に引き裂かれた恋
ナチス占領下、ドイツ軍の若い将校ボード・フォン・プレンケと恋に落ちました。彼女にとっては純粋な愛でしたが、フランス国民からは「裏切り者」と見なされました。解放後、彼女は逃亡を試みるも捕らえられ、暴行を受け、投獄されるという悲惨な末路を辿りました。
3. 誰からも忘れられた晩年
出所後、映画界への復帰を試みましたが、世間の目は冷たく、彼女を助ける者はほとんどいませんでした。かつての美貌も病と心労で失い、パリの屋根裏部屋で極貧生活を送り、最期は慈善団体の施設でその生涯を閉じました。
4. 彼女の葬列を見送ったのは……
彼女の葬儀には、かつて彼女を称賛した有名人たちの姿はほとんどありませんでした。しかし、最期まで彼女を支えた数少ない友人と、彼女の過去を知りながらも慈悲を注いだ修道女たちが、静かにその死を悼みました。
5. 「ペペ」への想い
晩年、彼女は隠れるように暮らしていましたが、テレビで『望郷』が放送されるたびに、かつての恋人ジャン・ギャバンと過ごした輝かしい日々を思い出し、涙を流していたという逸話が残っています。
6. 死後の再評価
長い間、歴史の闇に葬られていた彼女ですが、近年では「戦争という狂気の犠牲者」として再評価が進んでいます。その非の打ち所がない美しさと、あまりに哀しい一生は、今も多くの映画ファンや作家たちの創作意欲を刺激し続けています。
📝 まとめ:カスバの幻影、美しき反逆者の末路
ミレーユ・バランは、美しすぎたがゆえに、そして自分に正直に生きようとしたがゆえに、時代に踏みつぶされた女性でした。彼女が『望郷』で見せたあの眩いばかりの光輝は、フランス映画が最も輝いていた時代の記憶そのものです。その人生がどれほど悲劇的であったとしても、銀幕に刻まれた彼女の冷徹で気高い美しさは、永遠に色褪せることはありません。
[出演作品]
1932 年 21 歳
ドン・キホーテ
1934 年 23 歳
クラス万才 Vive la compagnie
私がパトロンだったら If I Were Boss
1935 年 24 歳
苦悶するマリー Marie des angoisses
1937 年 26 歳
愛欲 Gueule D’Amour
1938 年 27 歳
黄金のヴィーナス Golden Venus
ブーワ隊長 Captain Benoît
1940 年 29 歳
賭博の地獄マカオ Macao, l’enfer du jeu
1941 年 30 歳
弟フロモンと兄リスレ Fromont jeune et Risler aîné
1942 年 31 歳
最後の切り札 Dernier atout
1946 年 35 歳
最後の騎馬行 La dernière chevauchée


