PR

シラノ・ド・ベルジュラック Cyrano de bergerac 1950 |キャスト・あらすじ【ネタバレ】

ローレライ@洋画愛好家をフォローする

剣客の誇り、詩人の魂。醜い素顔の裏に秘めた、究極の献身と名もなき愛の独白。

類まれな剣術と、美しい詩を紡ぐ知性を持ちながら、自らの巨大な鼻を呪う騎士シラノ。彼は美しい従姉ロクサーヌを愛しながらも、外見への引け目から想いを告げられず、若く美男だが口下手なクリスチャンのために恋文を代筆する。

愛する女性に捧げる言葉が、皮肉にも別の男の愛を成就させていくという残酷な運命。ホセ・フェラーがオスカーに輝いた、悲劇と詩情が交錯する文芸映画の記念碑。

シラノ・ド・ベルジュラック
Cyrano de bergerac
(アメリカ 1950)

[製作] スタンリー・クレイマー/ジョージ・グラス
[監督] マイケル・ゴードン
[原作] エドモン・ロスタン/ブライアン・フッカー
[脚本] カール・フォアマン
[撮影] フランツ・プラナー
[音楽] ディミトリー・ティオムキン
[ジャンル] 恋愛/ドラマ
[受賞]
アカデミー賞 主演男優賞(ホセ・フェラー)
ゴールデン・グローブ賞 撮影賞/主演男優賞(ホセ・フェラー)

キャスト

ホセ・フェラー (シラノ・ド・ベルジュラック)
マーラ・パワーズ (ロクサーヌ)
ウィリアム・プリンス (クリスチャン)
ラルフ・クラントン (アントワーヌ)
モーリス・カーノフスキー (ル・ブレ)
エレナ・ヴァーデューゴ (オレンジガール)
ヴァージニア・ファーマー (デュアンナ)
エドガー・バリア (枢機卿)

受賞・ノミネートデータ

受賞年部門結果
1951第23回アカデミー賞主演男優賞(ホセ・フェラー)受賞
1951第8回ゴールデングローブ賞主演男優賞(ドラマ部門)受賞
1951第8回ゴールデングローブ賞撮影賞(白黒)ノミネート

評価

舞台版でも絶賛されたホセ・フェラーの「当たり役」を映画化した本作は、低予算ながらも脚本の力と俳優の圧倒的な演技力で観客を魅了しました。ロスタンの華麗な台詞回しを活かしつつ、映画ならではのフェンシング・アクションや戦場シーンを盛り込み、古典の魅力を現代(当時)に蘇らせました。

特にフェラーの演技は、特殊メイクの鼻に頼ることなく、声の響きと眼差しだけでシラノの誇りと哀しみを表現し、現在もなお「最高のシラノ役者」の一人として語り継がれています。


あらすじ:代筆された恋、偽りの調べ

17世紀のフランス。シラノ・ド・ベルジュラック(ホセ・フェラー)は、豪快な剣客でありながら、人並み外れた大きな鼻に深いコンプレックスを抱えていた。彼は密かにロクサーヌ(マーラ・パワーズ)を愛していたが、彼女が恋したのは若く美しい男クリスチャン(ウィリアム・プリンス)だった。

知性はあるが愛の言葉を綴れないクリスチャンのため、シラノは自らの想いを彼の手紙に託して代筆し、バルコニーの下で彼に代わって愛を囁く。ロクサーヌはクリスチャンの「美しい魂」に恋をするが、それはすべてシラノの魂そのものだった。やがて戦火が激しくなり、三人の運命は戦場へと引き裂かれていく。


クリスチャンは戦死し、悲しみに暮れるロクサーヌは修道院に隠遁する。15年の歳月が流れ、老いと貧困に苦しみながらも毎週彼女を訪ねるシラノだったが、ある日、敵対する者の闇討ちに遭い、致命傷を負ってしまう。

死を悟ったシラノは、最後の訪問でロクサーヌにクリスチャンの遺書を読んで聞かせる。暗闇の中でも、手紙を読み上げることなく空で暗唱するシラノ。その声に聞き覚えがあったロクサーヌは、15年前にバルコニーの下で囁いた主が誰であったか、そして自分が愛していたのはシラノの魂であったことにようやく気づく。ロクサーヌの腕の中で、最後まで「誇り(パナッシュ)」を失わずに戦い抜いたシラノは、静かに息を引き取る。



エピソード・背景

  • ホセ・フェラーによる歴史的快挙
    プエルトリコ出身のフェラーは、本作でヒスパニック系俳優として初めてアカデミー主演男優賞を受賞するという快挙を成し遂げました。彼は舞台でもこの役を数多く演じており、一分の隙もない完成された台詞術で、古典戯曲の重厚さを映画のスクリーンへと完璧に移植しました。
  • 低予算を補う工夫
    本作はインディペンデント製作であったため、予算は限られていました。しかし、監督のマイケル・ゴードンは、シラノの「鼻」を強調する陰影豊かな照明や、閉塞感のあるセットを逆手に取った親密な構図を用いることで、舞台劇の持つ濃密なドラマ性を際立たせることに成功しました。
  • ディミトリ・ティオムキンの壮麗な音楽
    数々の名曲を残した巨匠ティオムキンが手がけた劇伴は、シラノの騎士としての勇猛さと、詩人としての繊細さを描き分けました。特にラストシーンの悲劇性を高める情緒的な旋律は、アカデミー賞の常連であった彼の才能が遺憾なく発揮されています。
  • カッティング(編集)の妙
    本作のフェンシングシーンは、フェラーの機敏な動きを活かしつつ、テンポの良い編集で構成されています。特に序盤の、詩を詠みながら決闘するシーンは、シラノという人物の「剣と詩」が一体となった魅力を視覚的に表現した名場面として、後世の冒険映画にも影響を与えました。
  • カール・フォアマンの鋭い脚本
    後に『真昼の決闘』などを手がける脚本家フォアマンは、ロスタンの長大な戯曲を113分に凝縮しました。原作の持つリズムを崩さずに、映画としてのダイナミズムを加えた彼の脚力は、本作が単なる「舞台の記録」に終わらない高い評価を得る要因となりました。
  • 共演者たちの支え
    クリスチャン役のウィリアム・プリンスは、あえて「凡庸な美青年」を抑えた演技で表現することで、シラノの内面的な輝きをより際立たせました。また、ヒロインのマーラ・パワーズが見せる、真実を知った時の慟哭は、物語の終幕に深い感動を刻み込みました。

まとめ:作品が描いたもの

本作は、17世紀の騎士道物語を借りて、人間の持つ「真実の美しさ」とはどこにあるのかを力強く総括した文芸映画の傑作でした。マイケル・ゴードン監督は、容姿に囚われることのない魂の気高さを、ホセ・フェラーという稀代の名優を通じて見事に結晶させました。

道化のような外見の下に秘められた、一片の濁りもない無償の愛と誇りを描き切った本作は、ハリウッド黄金時代における本格的な人間ドラマの質の高さを証明する記録となりました。


〔シネマ・エッセイ〕

暗闇のバルコニーの下、震えるような声で愛を囁くシラノ。あの瞬間に彼が流していたのは、自分自身の言葉を別の男に託さねばならないという、やるせない悲しみの涙だったのでしょう。ホセ・フェラーの演じるシラノは、どんなに自虐的な冗談を口にしても、その瞳の奥には決して折れることのない剣士の誇りが宿っています。

「鼻」というコンプレックスに人生を左右されながらも、彼は誰よりも自由に、誰よりも正しく生きようとしました。ラストシーン、修道院の落葉の中で、自らの最期を悟りながらロクサーヌに真実を明かしていく場面。そこで彼が語る言葉は、もはや代筆された手紙ではなく、彼自身の命そのものでした。

愛する人に自分の正体を知ってもらいたいという願いと、彼女の思い出を壊したくないという葛藤。その末に辿り着いた、15年越しの愛の告白。見終わった後、白黒の映像が鮮やかな色彩を持って心に焼き付くような、この上なく贅沢で美しい悲劇の余韻に包まれます。

タイトルとURLをコピーしました