ワイルド・アット・ハート
Wild at Heart
(アメリカ 1990)
[製作総指揮] マイケル・カーン
[製作] スティーヴ・ゴリン/モンティ・モンゴメリー/シガージョン・サイヴァッソン
[監督] デヴィッド・リンチ
[原作] バリー・ギフォード
[脚本] デヴィッド・リンチ
[撮影] フレデリック・エルムス
[音楽] アンジェロ・バダラメンティ/デヴィッド・リンチ
[ジャンル] 恋愛/ドラマ/コメディ
[受賞] カンヌ映画祭 グランプリ
キャスト

ニコラス・ケイジ
(セイラー・リプリー)

ローラ・ダーン
(ルーラ・フォーチュン)

ウィレム・デフォー
(ボビー・ペルー)
J・E・フリーマン (マルセレス・サントス)

クリスピン・グローヴァー
(デル)

ダイアン・ラッド
(マリエッタ・ペイス・フォーチュン)
カルヴァン・ロックハート (レジー)

イザベラ・ロッセリーニ
(ペルディータ・デュランゴ)

ハリー・ディーン・スタントン
(ジョニー・ファロー)
グレイス・ザブリスキー (ジュアナ)

シェリリン・フェン
(女)
ジャック・ナンス (00スプール)

シェリル・リー
(グリンダ(良心))
ストーリー
愛し合うセイラーとルーラだが、ルーラの狂気的な母親マリエッタは二人の交際を執拗に阻んでいた。マリエッタが差し向けた刺客を返り討ちにし、過剰防衛で服役していたセイラーは、出所後すぐにルーラを連れてカリフォルニアへと逃避行を始める。
マリエッタは私立探偵や殺し屋のサントスを雇い、二人の抹殺を画策する。二人は黄色いレンガの道を辿るように南へ向かうが、道中で凄惨な事故現場に遭遇したり、不気味な人物たちと接触したりと、悪夢のような出来事に次々と見舞われる。やがてテキサス州の寂れた町ビッグ・ウィグに流れ着いた二人は、不気味な犯罪者ボビー・ペルーと出会い、セイラーは生活資金のために彼と銀行強盗を計画する。
しかし、これはボビーによる罠であり、強盗は失敗。ボビーは自滅的な最期を遂げ、セイラーは再び逮捕される。数年後、再び出所したセイラーは、自分を待っていたルーラと再会する。一度は彼女の幸せを思い身を引こうとするセイラーだったが、リンチ流の「善い魔女」の啓示を受け、愛こそが全てだと確信。大渋滞の車の上を駆け抜け、ルーラのもとへ戻り「ラヴ・ミー・テンダー」を歌い上げるハッピーエンドで幕を閉じる。
エピソード
ニコラス・ケイジの私物ジャケット
セイラーが着用している象徴的な「ヘビ皮のジャケット」は、実はニコラス・ケイジの私物です。彼はこのジャケットが自分のキャラクターの個性(「個人の自由と信念」の象徴)を表すと主張し、監督もそれを採用しました。
ウィレム・デフォーの異様な役作り
悪党ボビー・ペルーを演じたウィレム・デフォーは、歯を黒く塗り、不気味な髭を蓄えて怪演を見せました。特にルーラを言葉と威圧感で陵辱しようとするシーンは、映画史に残るほど観客に強い不快感と緊張感を与えます。
『オズの魔法使』へのオマージュ
全編を通して『オズの魔法使』のモチーフが散りばめられています。クリスタル・ボールや赤い靴、善い魔女の登場など、暴力的な現実世界をファンタジーのフィルターを通して描くことで、独特の浮遊感を生み出しています。
カンヌでの賛否両論
パルム・ドールを受賞した際、会場からは歓喜の声と共に激しいブーイングも飛び交いました。あまりにも過激な暴力描写や、リンチ特有のシュールな演出が、当時の映画界にそれほど大きな衝撃を与えた証拠でもあります。
ローラ・ダーンと母の実共演
ヒロインを演じたローラ・ダーンと、その狂気的な母親を演じたダイアン・ラッドは、実の親子です。本物の親子だからこそ出せる近親憎悪的なエネルギーが、マリエッタの異常な執着心に圧倒的な説得力を持たせています。
修正を余儀なくされた暴力シーン
銀行強盗のシーンでボビー・ペルーの頭部が吹き飛ぶショットなど、あまりに直接的な描写が多かったため、映倫の規定をパスするために一部のシーンで煙を追加して視覚を遮るなどの修正が行われました。
まとめ
本作は、邪悪な悪意が蔓延する「地獄のような世界」で、純粋な愛を貫こうとする男女を描いたモダン・メルヘンです。リンチ監督は、ポップカルチャーの象徴であるエルヴィス・プレスリーのイメージと、グロテスクな暴力を隣り合わせに配置することで、アメリカの持つ光と影を同時に描き出しました。
考察として重要なのは、物語を彩る『オズの魔法使』の意匠です。過酷な現実を生き抜くためにファンタジーの力を借りる二人の姿は、一見不条理ですが、それこそが「ワイルド・アット・ハート(荒ぶる心)」を持つ者たちの生存戦略でもあります。ラストのあまりに出来過ぎた多幸感あふれる結末も、狂った世界に対するリンチなりの「愛の勝利」の宣言であり、同時に強烈な皮肉とも受け取れる多層的な構造になっています。


