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望郷 Pepe Le Moko 1937 |キャスト・あらすじ【ネタバレ】| ジャン・ギャバン

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カスバの迷宮に散る、孤独な王者の儚き夢。フランス映画界永遠の伝説

アルジェの迷宮街カスバを支配する大泥棒ペペ・ル・モコ。脱出不可能な迷路の中で、彼はパリから来た一人の女に、手の届かないはずの望郷の念を抱く。ジャン・ギャバンの渋い魅力が炸裂する、詩的リアリズムの最高傑作。

望郷
Pepe Le Moko
(フランス 1937)

[製作] レイモン・アキム/ロベール・アキム
[監督] ジュリアン・デュヴィヴィエ
[原作] ロジェ・アシェルベ
[脚本] ロジェ・アシェルベ/ジュリアン・デュヴィヴィエ/ジャック・コンスタン/アンリ・ジャンソン
[撮影] ジュールス・クルージェ/マルク・フォサール
[音楽] ヴァンサン・スコット
[ジャンル] クライム/恋愛/ドラマ
[受賞] ナショナル・ボード・オブ・レビュー 外国映画賞

キャスト

ジャン・ギャバン
(ペペ・ル・モコ)

ミレーユ・バラン
(ギャビー)

ガブリエル・ガブリオ (カルロス)
ルーカス・グリドゥー (スリマヌ刑事)
ジルベルト・ジル (ピエロ)
リネ・ノロ (イネ)
サトゥルニン・ファブレ (祖父)
フェルナン・シャルパン (レジ)
マルセル・ダリオ (ラルビ)



ストーリー

アルジェの旧市街カスバ。そこは狭い路地と階段が複雑に入り組んだ、警察も容易には手を出せない「犯罪者の楽園」だった。パリから逃亡してきた粋な大泥棒ペペ・ル・モコ(ジャン・ギャバン)は、この街の王者として君臨していたが、一歩でもカスバの外に出れば即座に逮捕されるという、見えない檻の中での生活に苛立ちを感じていた。

ある日、ペペはパリから観光に来た美しい女性ギャビー(ミレーユ・バラン)と出会う。彼女のまとう都会的な香りと洗練された姿に、ペペは強く惹きつけられる。それは単なる恋心ではなく、彼が捨ててきた故郷パリそのものへの、抗いがたい「望郷」の念だった。狡猾なスリマヌ刑事は、そのペペの心の隙を見逃さず、彼をカスバの外へ誘い出すための罠を仕掛ける。

スリマヌ刑事の策略により、ペペは「ギャビーが自分を待っている」と信じ込ませられ、ついに絶対の安全地帯だったカスバを飛び出してしまう。しかし、それはすべて嘘だった。

港でパリへ戻る船に乗ろうとするギャビーの姿を見つけたペペだったが、その直後にスリマヌの手によって逮捕され、手錠をかけられる。ペペは刑事に「彼女が乗った船が港を出るまで待ってくれ」と懇願し、甲板に立つギャビーを遠くから見つめる。しかし、船の上のギャビーは岸壁にいるペペの姿に気づくことはなかった。

船が汽笛を鳴らして離れていく中、絶望に打ちひしがれたペペは、隠し持っていたナイフで自らの腹を刺す。愛する女を乗せた船が水平線の彼方へ消えていくのを見届けながら、カスバの王者は静かにその生涯を閉じるのだった。




エピソード・背景

  • ジャン・ギャバンのアイコン
    本作によってジャン・ギャバンは、孤独、哀愁、そして不器用な男の象徴として世界的なスターとなりました。特に彼が「パリ!」と叫び、故郷への想いを吐露するシーンは映画史に残る名場面です。
  • カスバのセット
    驚くべきことに、この映画の多くのシーンはアルジェのロケではなく、パリ郊外のスタジオに作られた巨大なセットで撮影されました。しかし、その光と影の演出は本物以上にカスバの熱気と閉塞感を見事に再現しています。
  • 「カスバの恋」との違い
    本作は後にハリウッドで『カスバの恋(Algiers)』としてリメイクされますが、フランス映画特有の救いようのない虚無感と詩情は、やはりこのオリジナル版にしか出せない味わいと言われています。
  • 運命の女(ファム・ファタール)
    ミレーユ・バラン演じるギャビーは、意図せずして男を破滅させる「運命の女」を完璧に体現しています。彼女の宝石のような輝きが、カスバの泥臭さと鮮やかな対比をなしています。
  • 音楽の魔法
    作曲家ヴァン・パリスによる音楽、特に蓄音機から流れるパリの歌が、ペペの望郷の念をより一層際立たせ、観客の涙を誘いました。
  • 映画の検閲
    本作の持つニヒリズムや犯罪者を美化する傾向は、後にヴィシー政権下のフランスで上映禁止処分を受けるなど、物議を醸した時期もありました。


まとめ:作品が描いたもの

本作が描くのは、物理的な逃亡の果てに行き着く「心の牢獄」です。カスバという自由なはずの場所が、パリを想うペペにとっては世界で最も狭い監獄へと変わっていく過程は、人間の根源的な孤独を浮き彫りにしています。

ラストシーンの自決は、自由になれないのなら死を選ぶという、ペペなりの最後にして最大の「プライド」の示し方でした。愛と郷愁、そして運命に敗れた男の姿は、今なお色褪せない美しさを放っています。


〔シネマ・エッセイ〕

港のフェンス越しに、遠ざかる船を見つめるペペの瞳。あそこに宿っているのは、もう二度と戻れない場所への絶望と、それでもなお消えない愛着です。ジャン・ギャバンのあの低く、枯れた声が、パリの街並みを語る時、私たちは銀幕の中に「見えないパリ」の風景を見ることになります。

「詩的リアリズム」と言われる通り、この映画には泥臭い犯罪の世界の中に、壊れやすいガラス細工のような美しさが同居しています。夜霧、煙草の煙、そして別れの汽笛。すべてが計算し尽くされた陰影の中で、一人の男の滅びの美学が完成されています。

『望郷』という邦題の素晴らしさ。原題の『ペペ・ル・モコ』という固有名詞だけでは伝えきれない、この物語の核心を一言で射抜いています。名作とは、観終わった後に自分もまた、どこか遠い場所を想って溜息をつきたくなるような作品のことを言うのでしょう。

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