輝くリヴィエラを舞台に繰り広げられる優雅な駆け引き——サスペンスの巨匠ヒッチコックが描くロマンチック・ミステリーの傑作

名匠アルフレッド・ヒッチコック監督が、主演にケーリー・グラントとグレース・ケリーを迎えて贈るサスペンス・コメディ。
南仏コート・ダジュールを舞台に、かつて伝説の宝石泥棒だった男が、自らの濡れ衣を晴らすために真犯人を追う姿と、彼に惹かれていく大富豪の令嬢との華麗な恋愛模様を描き出す。
泥棒成金
To Catch a Thief
(アメリカ 1955)
[製作] アルフレッド・ヒッチコック
[監督] アルフレッド・ヒッチコック
[原作] デヴィッド・ドッジ
[脚本] ジョン・マイケル・ヘイズ
[撮影] ロバート・バークス
[音楽] リン・マーレイ
[ジャンル] コメディ/ミステリー
[受賞] アカデミー賞 撮影賞
キャスト

ケーリー・グラント
(ジョン・ロビー)

グレース・ケリー
(フランシス・スティーヴンス)
シャルル・ヴァネル (ベルターニ)
ジェシー・ロイス・ランディス (ジェシー・スティーヴンス)
ジョン・ウィリアムズ (H・H・ヒューソン)
ブリジット・オーベル (ダニエル・フッサール)
ジャン・マルティネリ (フッサール)

アルフレッド・ヒッチコック
(バスの男)
受賞・ノミネートデータ
| 受賞年 | 賞 | 部門 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1956 | 第28回アカデミー賞 | 撮影賞(カラー部門:ロバート・バークス) | 受賞 |
| 1956 | 第28回アカデミー賞 | 美術賞(カラー部門) / 衣裳デザイン賞(カラー部門) | ノミネート |
評価
デヴィッド・ドッジの同名小説を原作に、ヒッチコックならではの洗練されたユーモアとスリルを融合させた上質なエンターテインメント作品です。 ロバート・バークスによる撮影が第28回アカデミー撮影賞を受賞した通り、南仏リヴィエラの陽光と夜景を美しく捉えたヴィスタビジョン映像が高く評価されています。
ケーリー・グラントのダンディズムと、ハリウッド史上屈指のエレガンスを誇るグレース・ケリーの眩い魅力がスクリーン全体を彩っています。
あらすじ:伝説の宝石泥棒と連続宝石盗難事件
かつて「キャット(猫)」の異名で恐れられた伝説の宝石泥棒ジョン・ロビー(ケーリー・グラント)は、足を洗って南仏の邸宅で穏やかな生活を送っていた。しかし、彼の手口を完全に模倣した連続宝石盗難事件がリヴィエラで発生。警察から疑いをかけられたロビーは、身の潔白を証明するため自ら真犯人を捕まえようと動き出す。
保険会社の調査員ヒューソン(ジョン・ウィリアムズ)から情報を得たロビーは、次の標的と目されるアメリカの大富豪の母娘に接触。美しく知的な娘フランシス(グレース・ケリー)は、ロビーの正体が「キャット」であることを見抜きながらも、彼の危険でミステリアスな魅力に深く惹かれていく。
ロビーは自身を囮に真犯人を追い詰めるべく、豪華な仮装舞踏会での一世一代の作戦に打って出るのだった。
仮装舞踏会の夜、高級な宝石を身につけたフランシスの母ジェシー(ジェシー・ロイス・ランディス)が標的となる。警察や警備の目を欺き、黒いキャットスーツに身を包んだ真犯人が屋根の上へと逃走。ロビーは夜の屋根で真犯人を追い詰め、仮面を剥ぎ取る。
現れた真犯人の正体は、ロビーの昔のレジスタンス仲間ベルターニの店で働いていた若き給仕係の少女ダニエル(ブリジット・オーベル)だった。裏で事件を糸引いていたのは彼女の父フッサール(ジャン・マルティネリ)とレストランの店主ベルターニ(シャルル・ヴァネル)であり、かつての仲間に罪をなすりつけようとしていたことが発覚する。
事件は見事に解決し、ロビーの冤罪は晴れる。彼を心から信じ抜いたフランシスはロビーの邸宅を訪れ、二人は固い抱擁を交わす。フランシスが「母もこの家を気に入るわ」と囁き、ロビーが少し困惑しながらも微笑むコミカルなハッピーエンドで物語は幕を閉じる。
エピソード・背景
- グレース・ケリーとモナコ公国レーニエ大公との出会い
本作のロケーション撮影で南仏を訪れていたグレース・ケリーは、撮影の合間にカンヌ映画祭へ出席し、そこでモナコ公国のレーニエ3世大公と出会いました。これがきっかけとなり、翌1956年に世紀の結婚を果たして女優を引退することになります。 - 運命的なロケ地での自動車事故
劇中でグレース・ケリー演じるフランシスが、ケーリー・グラントを横に乗せて南仏の山道を猛スピードでドライブする有名なシーンがあります。後年(1982年)、グレース・ケリーが自動車事故で亡くなった場所は、まさに本作で撮影された山道(モナコ近郊)のすぐ近くでした。 - 映画史に残る「花火」の濡れ場シークエンス
ホテルの部屋でフランシスがロビーを誘惑するシーンでは、窓の外で打ち上がる花火の映像と二人のキスシーンが交互にカットインされます。当時の厳しい映画検閲(プロダクション・コード)を巧みにすり抜けつつ、エロティシズムを表現したヒッチコック流のエレガントな演出として有名です。 - ヒッチコックのカメオ出演
おなじみの監督自身によるカメオ出演は、物語の序盤。ロビーが警察の追手を逃れて乗り込んだバスの中で、彼の隣に座り、鳥かごを持った乗客として画面に登場します。 - 伝説の衣裳デザイナー、イーディス・ヘッドによる洗練されたドレス
ハリウッド黄金期を支えた衣裳デザイナーのイーディス・ヘッドが手掛けた衣装の数々は、グレース・ケリーの洗練された美しさを際立たせ、アカデミー衣裳デザイン賞にノミネートされました。
まとめ:作品が描いたもの
陽光眩しいリヴィエラを背景に、優雅な詐欺師のサスペンスと洒脱な大人のロマンスが見事に結実した至高のエンターテインメントです。真犯人を追うスリルだけでなく、互いに腹を探り合いながら惹かれ合っていく男女の駆け引きを通し、ヒッチコックならではの上品で洗練された映像美学を存分に堪能できる名作と言えるでしょう。
〔シネマ・エッセイ〕
コバルトブルーに輝く地中海と、夜の闇にきらめく色鮮やかな花火。スクリーンを埋め尽くすリヴィエラの圧倒的な美しさと洒脱な空気感に、観るたび心が浮き立ちます。
男と女の優雅な言葉のドッジボールが、サスペンスの緊張感以上に私の心を強く揺さぶります。正体を知りながらも悪戯っぽく微笑んでロビーを翻弄するフランシスの気品ある強さ。互いに牙を隠しながら探り合い、火花を散らす二人のやり取りには、成熟した大人だけに許された極上の遊び心が満ちています。
月光に照らされた屋根の上でのスリリングな決着と、すべてを乗り越えたあとに交わされる晴れやかな微笑み。サスペンスという仕掛けを借りて描かれるのは、疑いを超えて互いを引き寄せ合う真実の情熱です。洗練されたロマンスの甘い余韻が、映画が終わった後も心に温かく残り続けます。

