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旅情 Summertime 1955

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美しい水の都ヴェネツィアで咲いた過酷なまでに切ない大人たちの夏恋物語

名匠デヴィッド・リーン監督が大女優キャサリン・ヘプバーンを主演に迎えて描いたロマンチック・ドラマの不朽の名作。

夢にまで見たイタリア・ヴェネツィアへ一人旅にやってきた独身のアメリカ人女性が、情熱的な現地男性との出会いを通して人生の歓びと甘くほろ苦い現実に直面していく姿を描き出す。

旅情
Summertime
(アメリカ・イギリス 1955)

[製作] ノーマン・スペンサー/イルヤ・ロバート
[監督] デヴィッド・リーン
[原作] アーサー・ローレンツ
[脚本] デヴィッド・リーン/H・E・ベイツ/ドナルド・オグデン・スチュワート
[撮影] ジャック・ヒルドヤード
[音楽] アレッサンドロ・チコイーニ
[ジャンル] 恋愛
[受賞] NY批評家協会賞 監督賞

キャスト

キャサリン・ヘプバーン
(ジェーン・ハドソン)

ロッサノ・ブラッツィ
(レナート・ド・ロッシ)

イザ・ミランダ (シノーラ)
ダレン・マクガヴァン (エディ・イエガー)
マリ・アルドン (フィル・イエガー)
ジェレミー・スペンサー (ヴィトー・ド・ロッシ)



受賞・ノミネートデータ

受賞年部門結果
1956第28回アカデミー賞監督賞(デヴィッド・リーン) / 主演女優賞(キャサリン・ヘプバーン)ノミネート
1956第9回英国アカデミー賞最優秀総合作品賞 / 最優秀外国女優賞(キャサリン・ヘプバーン)ノミネート
1955第21回ニューヨーク映画批評家協会賞監督賞(デヴィッド・リーン)受賞

評価

劇作家アーサー・ローレンツの戯曲『ハトの巣(The Time of the Cuckoo)』を原作に、旅先での旅情と大人の孤独を見事にすくい上げた恋愛映画の名作です。 全編ヴェネツィア・ロケで撮影された色鮮やかなテクニカラー映像が非常に高く評価されています。

キャサリン・ヘプバーンが見せる意地っぱりで繊細な演技と、アレッサンドロ・チコニーニが作曲した情緒あふれるテーマ曲(「ヴェニスの夏の日」)が観客の心を魅了し続けています。

あらすじ:夢の都で出逢った運命の恋

アメリカのオハイオ州で働く独身女性ジェーン(キャサリン・ヘプバーン)は、長年貯めたお金で念願のヴェネツィア旅行へやってくる。賑やかな観光客や仲睦まじいカップルに囲まれながらも、彼女はどこか浮いた自分と満たされない寂しさを抱えていた。

ある日、サン・マルコ広場のカフェで過ごしていたジェーンは、骨董品店を営む洗練されたイタリア人男性レナート(ロッサノ・ブラッツィ)からの熱い視線に気づく。戸惑いながらも、彼の優しさと情熱的なアプローチに引き込まれ、ついに二人は恋に落ちる。

しかし、夢のような時間を過ごす中で、ジェーンはレナートが妻と子供を持つ既婚者であることを知ってしまう。ショックを受け拒絶するジェーンに対し、レナートは「今この瞬間の美しさを共有しよう」と静かに語りかけるのだった。

葛藤の末、ジェーンは残された滞在時間をレナートとともに過ごす決心をする。夢のような甘い一夜を過ごし、大人の恋の歓びを噛みしめるジェーン。しかし、彼女は「最高の思い出のまま旅立つこと」こそが、自分の自尊心と彼の家庭を守る唯一の道だと悟る。

予定を繰り上げ、急遽帰国の途につくジェーン。駅のホームで列車が動き出したとき、一輪の白いガーデニア(クチナシの花)を手に走ってくるレナートの姿があった。彼は走る列車に追いつけず、プレゼントを渡すことは叶わない。

窓から身を乗り出し、花を手にしたレナートの姿を遠く見つめるジェーン。切ない別れの涙を流しながらも、その瞳には旅を通して自分自身の愛を知った女性としての誇らしげな輝きが宿っていた。


エピソード・背景

  • キャサリン・ヘプバーンを襲った運河転落事故と後遺症
    劇中、カメラで撮影に夢中になったジェーンがバックで運河へ落ちる名シーンがあります。吹き替えなしで撮影に挑んだヘプバーンですが、汚濁した運河の水が目に入り、重い目の感染症(慢性の眼病)を患って生涯苦しむことになりました。
  • 名匠デヴィッド・リーンによる完璧なロケーション撮影
    後に『アラビアのロレンス』などを手がけるデヴィッド・リーン監督は、スタジオセットを一切使わずオール・ヴェネツィアロケを敢行。絵画のように美しい運河や広場、細い路地の光と影をテクニカラーで鮮烈に捉えました。
  • 世界中で大ヒットしたテーマ曲「ヴェニスの夏の日」
    アレッサンドロ・チコニーニによるテーマ曲は「Summertime in Venice(ヴェニスの夏の日)」として歌詞がつけられ、世界中で大ヒットを記録。映画のセンチメンタルな余韻を永遠のものにしました。
  • 当時の厳しい検閲(プロダクション・コード)との戦い
    既婚男性と独身女性の不倫を描いているため、当時のアメリカの映画検閲から厳しい指導が入りました。リーン監督は安易な泥沼劇にせず、大人の自立と切ない旅情のドラマへと昇華させることでクリアしました。
  • キャサリン・ヘプバーンのハマリ役
    自立しているものの恋には不器用で意地っ張りな「オールドミス」の切なさを、ヘプバーンが持ち前の品格とチャーミングさで見事に表現。彼女の代表作の一つとなりました。

まとめ:作品が描いたもの

人生の半ばで巡り会った一瞬の恋と、孤独を受け入れながら生きていく大人の自立を描いたロマンチック・ドラマです。憧れの異国で得た短い愛の記憶が、一人の女性の人生をどれほど豊かに彩り、成長させるかを描き出しています。ヴェネツィアの美しい景観とともに、甘く切ない人生の瞬間を永遠に焼き付けた名作と言えるでしょう。

〔シネマ・エッセイ〕

陽光にきらめく運河の水面と、夕暮れ時のサン・マルコ広場に響くヴァイオリンの旋律。スクリーンに映し出されるヴェネツィアの街並みは、孤独な旅行者の心をどこまでも優しく、そして切なく揺さぶります。

レナートが差し出す手を取り、束の間の幸福に身を投じるジェーンの瞳が、旅情以上に私の心を強く揺さぶります。若さゆえの情熱ではなく、自分の人生の孤独や限界を知っているからこそ魅せる、大人ならではの甘く切ない諦念。不倫という枠組みを超えて、彼女が求めたのは「誰かに愛され、誰かを愛したという真実」そのものだったのだと胸が熱くなります。

動き出した列車から遠ざかる男を見つめるラストシーン。渡せなかった白い花を手に佇む彼の姿を胸に焼き付け、涙を拭って前を向く彼女の横顔には、どんな孤独にも負けない凛とした気品と強さが満ちあふれています。

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