流亡のパリで繰り広げられる甘美な疑惑と気高きドラマ、名女優イングリッド・バーグマンの劇的な復帰を飾った傑作!

名匠アナトール・リトヴァク監督が、大女優イングリッド・バーグマンと名優ユル・ブリンナーを迎えて描いたロマンチック・サスペンス。
ロシア帝国崩壊後に囁かれたアナスタシア皇女生存説をモチーフに、財産目当ての策略に巻き込まれた記憶喪失の女性が、本物の皇女としての気品に目覚めていく姿を描き出す。
追想
Anastasia
(アメリカ 1956)
[製作] バディ・アドラー
[監督] アナトール・リトヴァク
[原作] ガイ・ボルトン
[脚本] アーサー・ローレンツ
[撮影] ジャック・ヒルドヤード
[音楽] アルフレッド・ニューマン
[ジャンル] ドラマ/恋愛
[受賞]
アカデミー賞 主演女優賞(イングリッド・バーグマン)
ゴールデン・グローブ賞 主演女優賞(イングリッド・バーグマン)
ナショナル・ボード・オブ・レビュー 主演男優賞(ユル・ブリンナー)
NY批評家協会賞 主演女優賞(イングリッド・バーグマン)
キャスト

イングリッド・バーグマン
(アンナ・コレフ アナスタシア皇女)

ユル・ブリンナー
(パヴロヴィッチボーニン王子)

ヘレン・ヘイズ
(皇太后)
エイキム・タミロフ (チェルノフ)
マルティータ・ハント (フォン・リーフェンバウム男爵夫人)
フェリックス・アイルマー (侍従)
サッシャ・ピテフ (ペトローニン)
イワン・デスニー (ポール王子)
受賞・ノミネートデータ
| 受賞年 | 賞 | 部門 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1957 | 第29回アカデミー賞 | 主演女優賞(イングリッド・バーグマン) | 受賞 |
| 1957 | 第29回アカデミー賞 | 劇・コメディ映画音楽賞(アルフレッド・ニューマン) | ノミネート |
| 1957 | 第14回ゴールデングローブ賞 | 最優秀主演女優賞(ドラマ部門:イングリッド・バーグマン) | 受賞 |
評価
ロマン・グレイの劇作『アナスタシア』を豪華絢爛に映画化した格調高い宮廷ドラマです。 ハリウッドから一時離れていたイングリッド・バーグマンが見事な演技で主演女優賞を獲得し、華々しい復帰を果たした作品として映画史に刻まれています。偽者か本物かというサスペンス要素と、孤独な男女が通わせる真実の愛の描写が見事な調和を見せています。
あらすじ:狙われたロシア皇室の莫大な遺産
1928年のパリ。革命によって亡命した元ロシア帝国将校のブーニン(ユル・ブリンナー)は、英国銀行に凍結されているロシア皇室の莫大な遺産を手に入れるため、処刑を免れて生存しているとされるニコライ2世の末娘アナスタシア皇女を探し出す詐欺計画を企てる。
ブーニンはセーヌ川へ身を投げようとしていた記憶喪失の薄幸な女性アンナ(イングリッド・バーグマン)を助け出し、彼女をアナスタシアに仕立て上げるための猛特訓を開始する。皇室の礼儀作法や秘められた記憶を叩き込まれていくアンナ。
しかし、彼女が見せるふとした仕草や、教えていないはずの宮廷の秘密に関する発言は、首謀者であるブーニン自身に「彼女は本当に本物のアナスタシアなのではないか」という深い疑惑と動揺を抱かせるのだった。
公認を得るための最終試練として、アンナはデンマークに滞在するアナスタシアの祖母、皇太后マリア(ヘレン・ヘイズ)との会見に臨む。最初は偽者だと突っぱねていた皇太后だったが、怯えながら見せたアンナの独特の咳き込み方と幼少期の二人だけの思い出に触れ、彼女を愛する本物のアナスタシアだと確信して感涙の抱擁を交わす。
皇女の正式なお披露目となる舞踏会の夜。莫大な財産と皇女としての地位が約束されたアンナだったが、彼女の心はすでに自分を真の女性として愛し、自らも愛するようになったブーニンへと向かっていた。
孫娘の真の幸福を悟った皇太后は、二人が静かに会場から抜け出すのを密かに見送る。お披露目の場に現れない理由を尋ねる貴族たちに対し、皇太后は「演劇は終わりました。帰りましょう」と告げ、アンナは皇女の称号や富を捨て、一人の女性としてブーニンとともに新しい人生へと旅立っていくのだった。
エピソード・背景
- イングリッド・バーグマンの劇的なハリウッド復帰と2度目のアカデミー賞
ロベルト・ロッセリーニ監督とのスキャンダルによりハリウッドを追われていたバーグマンですが、本作での圧巻の演技が称賛され、見事2度目のアカデミー主演女優賞を獲得。ハリウッドへの華々しい復帰を遂げました。 - 『王様と私』で乗りに乗るユル・ブリンナーの連投
同年に『王様と私』でアカデミー主演男優賞を受賞したユル・ブリンナーが、野心家でありながらヒロインに魅了されていくブーニン将軍を魅力たっぷりに熱演。彼の鋭い眼光とカリスマ性が作品を引き締めています。 - 演劇界の至宝ヘレン・ヘイズとの屈指の名シーン
アメリカ演劇界の第一人者ヘレン・ヘイズが皇太后役で出演。ホテルの部屋でイングリッド・バーグマンと対峙し、猜疑心から確信へと感情が雪解けしていくクライマックスの対面シーンは、映画史に残る名演として称えられています。 - アルフレッド・ニューマンによる流麗なテーマ曲
映画音楽の巨匠アルフレッド・ニューマンが手がけた華やかで切ないテーマ曲は、後にパット・ブーンらが歌詞をつけて歌い、大ヒットを記録しました。ロマンチックな雰囲気を一層際立たせています。 - 歴史上の謎「アナスタシア伝説」
1918年のロマノフ家処刑以降、世界各地に現れたアナスタシアを騙る女性たち(特にアンナ・アンダーソン)の実話に着想を得て作られました(DNA鑑定により後に偽者と判明しますが、映画公開当時はロマンあふれる謎として世界中を魅了していました)。 - 豪華絢爛なシネマスコープによる映像美
1920年代のパリの街並みやコペンハーゲンの宮殿、豪華な衣装がカラーのシネマスコープ大画面で美しく捉えられており、ロマノフ王朝の残り香を感じさせる優雅な世界観が構築されています。
まとめ:作品が描いたもの
偽者か本物かという謎のドラマを通し、真のアイデンティティと愛の価値を描き出したロマンチック・サスペンスの傑作です。莫大な富や王位という虚飾の地位よりも、一人の人間として愛し愛される現実の幸福を選び取るヒロインの決断が爽やかな感動を呼びます。主演二人の圧倒的な気品と情感あふれる演劇が、観る者を惹きつけてやまない名作と言えるでしょう。
〔シネマ・エッセイ〕
シャンデリアが眩く煌めく舞踏会と、セーヌ川の冷たい霧。スクリーンを満たすクラシカルな美しさの陰には、時代の波に呑まれて行き場を失った人々の悲しい漂流が透けて見えます。
この作品の真のドラマは、偽りから始まった関係の中に芽生える真実の情熱にあります。記憶の欠片に怯える孤独な瞳が、ブーニンの過酷な手ほどきの中で洗練された気品を取り戻していく過程。身構えていた皇太后の頑なな心が、幼い頃の癖に触れて一瞬で崩れ去る瞬間の温もりには、何度観ても胸を突かれます。
華やかな宮廷の栄光を背にして、夜の闇へと姿を消す二人の後ろ姿。偽りの皇女という重荷を脱ぎ捨て、自由な一人の女性として歩み出した彼女の表情には、どんな宝石よりも美しい輝きが満ちています。

