荒野に響く歌声、恋の銃弾。ドリス・デイが放つ、底抜けに明るい西部のロマンス。

デッドウッドの街で男勝りに生きる女ガンマン、カラミティ・ジェーン。憧れの軍人に振り向いてもらうため、都会から人気歌手を連れてくると豪語するが、連れてきたのは偽者の侍女だった。
騒動の中で、口喧嘩ばかりしていた宿敵ワイルド・ビル・ヒコックとの間に芽生える意外な恋。ドリス・デイの圧倒的な歌唱力と躍動感が弾ける、痛快なウエスタン・ミュージカル。
カラミティ・ジェーン
Calamity Jane
(アメリカ 1953)
[製作] ウィリアム・ジェイコブス
[監督] デヴィッド・バトラー
[脚本] ジェームズ・オハンロン
[撮影] ウィルフリッド・M・クライン
[音楽]
レイ・ハインドルフ/ジャック・ドノヒュー/サミー・フェイン/ポール・フランシス・ウェブスター/デヴィッド・バトルフ/ハワード・ジャクソン
[ジャンル] ミュージカル/ウエスタン
[受賞] アカデミー賞 歌曲賞
キャスト

ドリス・デイ
(カラミティ・ジェーン)
ハワード・キール (ワイルド・ビル・ヒコック)
アリン・アン・マクレリー (ケイティ・ブラウン)
フィリップ・キャリー (ダニー・ギルマーティン)
ディック・ウェッソン (フランシス・フライヤー)
ポール・ハーヴェイ (ヘンリー・ミラー)
チャビー・ジョンソン (ラトルスネーク)
ゲイル・ロビンス (アデレード・アダムズ)
受賞・ノミネートデータ
| 受賞年 | 賞 | 部門 | 結果 |
| 1954 | 第26回アカデミー賞 | 歌曲賞(「シークレット・ラブ」) | 受賞 |
| 1954 | 第26回アカデミー賞 | ミュージカル映画音楽賞/録音賞 | ノミネート |
評価
実在の人物をモデルにしながらも、全編を明るいユーモアと華やかな楽曲で包み込んだ、ワーナー・ブラザース黄金期のミュージカルです。ドリス・デイの健康的でエネルギッシュな魅力が爆発しており、彼女の代表作の一つに数えられています。
それまでの「おてんば娘」像に、恋に悩む女性の繊細さを加えた演出が功を奏し、単なる西部劇の枠を超えた、普遍的なラブコメディとしての完成度を誇っています。
あらすじ:弾丸娘と恋の迷路
サウスダコタ州デッドウッド。鹿皮の服に身を包み、男顔負けの銃さばきを見せるジェーン(ドリス・デイ)は、街の荒くれ者たちからも一目置かれる存在だった。彼女は密かに憧れるギルマーティン中尉(フィリップ・キャリー)のために、シカゴの人気歌手アデレイドを街に連れてくると約束する。しかし、彼女が連れ帰ったのは、歌手の侍女で代役を夢見ていたケイ(アリン・アン・マクレリー)だった。
ケイを本物と信じ込ませようと奮闘するジェーンだったが、次第にケイは街の人気者になり、あろうことか中尉と恋に落ちてしまう。失恋に打ちひしがれるジェーンに、いつも皮肉を言い合っていたワイルド・ビル・ヒコック(ハワード・キール)が優しく手を差し伸べる。
ケイとの友情に亀裂が入り、嫉妬に狂ったジェーンは彼女を街から追い出そうとするが、ビルの説得により、自分の本当の気持ちがビルに向いていることに気づく。素直になった二人は愛を誓い合い、ジェーンは女としての幸福を見出す。
ラストは、ジェーンとビル、そして中尉とケイの二組による合同結婚式が盛大に執り行われる。ジェーンは純白のウェディングドレスを身にまとい、かつての荒々しい姿からは想像もつかないような輝く笑顔を見せる。街中の祝福を受けながら、二人の乗った馬車が荒野へと走り去り、大団円を迎える。
エピソード・背景
- ドリス・デイの圧倒的なエネルギー
主演のドリス・デイはこの役を心から楽しみ、スタントを立てずに激しいアクションや乗馬シーンの多くを自らこなしたそうです。彼女の放つポジティブなパワーが、作品全体のトーンを決定づけました。彼女は1950年代から60年代にかけて、アメリカの「理想の隣人」として絶大な人気を博しました。 - 名曲「シークレット・ラブ」の誕生
劇中でジェーンが森の中で歌い上げるこの曲は、全米チャート1位を記録する大ヒットとなりました。ドリス・デイはこの曲の録音を一発録り(ワンテイク)で完璧に仕上げ、スタッフ全員を驚かせたという伝説が残っています。この曲は今もなお、スタンダード・ナンバーとして多くの歌手にカバーされ続けています。 - ハワード・キールの豊かな歌声
相手役のワイルド・ビル・ヒコックを演じたハワード・キールは、当時MGMミュージカルの看板スターとして活躍していました。彼の堂々たるバリトンボイスはドリス・デイの歌声と素晴らしいハーモニーを奏で、西部劇らしい力強さとロマンチックな情緒を作品に与えました。 - 実在のジェーンが歩んだ過酷な生涯
モデルとなったマーサ・ジェーン・カナリーは、12歳で両親を亡くし、5人の弟妹を養うために男装して御者や軍の斥候として働きました。映画の華やかさとは裏腹に、実際は重度のアルコール依存症や極貧に苦しみ、晩年は見世物小屋に出演して糊口を凌ぐなど、孤独で報われない生涯を閉じたことが記録されています。 - 色彩豊かなテクニカラー
当時の最新技術であるテクニカラーによる鮮やかな色彩は、西部の荒野や酒場の賑わい、そしてジェーンの鮮やかな衣装を見事に映し出しました。視覚的な美しさが、ロジャース&ハマースタインの流れを汲む高品質なミュージカル映画としての価値をさらに高めています。 - 女性の自立と変容のテーマ
当時の映画としては珍しく、男性社会の中で対等に渡り合う女性の姿を生き生きと描いています。最終的には結婚という形を取りますが、ジェーンが自分自身のアイデンティティを見つめ直し、成長していく過程は、現代の観客にとっても共感できる要素として高く評価されました。
まとめ:作品が描いたもの
本作は、フロンティア・スピリットあふれる西部の物語を、音楽とダンスによって幸福感に満ちた最高のエンターテインメントへと仕立て上げた傑作でした。デヴィッド・バトラー監督は、ドリス・デイの類まれな資質を最大限に引き出し、強さと脆さを併せ持つ新しいヒロイン像を確立しました。
戦後の楽観主義の中で、愛と自己発見をポジティブに描き切った本作は、ハリウッド・ミュージカル黄金時代の活力を今に伝える貴重な記録となっています。
〔シネマ・エッセイ〕
ドリス・デイが馬車にまたがり、「Deadwood City!」と勢いよく叫びながら登場するシーン。あの瞬間から、観る者は彼女の持つ弾けるようなリズムに巻き込まれていきます。男装して銃を振り回す彼女が、恋を知り、鏡の前で戸惑いながらドレスをあてる姿には、時代を超えた愛らしさが漂っています。
特筆すべきは、やはり「シークレット・ラブ」を歌う場面でしょう。それまでの騒がしさが嘘のように静まり返った森の中で、彼女が静かに、そして力強く愛を告白する歌声は、荒野に咲いた一輪の花のような気高さがあります。ハワード・キールの包容力のある歌声との掛け合いも、まさに大人のロマンスを感じさせてくれます。
映画の最後、真っ白なドレスで馬車に揺られるジェーンの笑顔には、完璧なハッピーエンドがもたらす純粋な喜びが溢れています。見終わった後、心の中に明るい日差しが差し込むような、そして思わず口笛を吹きたくなるような、そんな爽快な幸福感に満たされる一作です。

