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女だけの都 La Kermesse heroique 1935 |キャスト・あらすじ【ネタバレ】| フランソワーズ・ロゼー

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剣と銃に震える男たちを尻目に、女たちの知恵と華やかな饗宴が街の危機を鮮やかに救う。

女だけの都

17世紀、スペイン軍の侵攻に怯え逃げ惑うフランドルの街を舞台に、臆病な男たちに代わって女たちが華麗な饗宴を仕掛け、戦火を回避しようと奮闘する風刺喜劇の傑作。ジャック・フェデー監督による絵画のような映像美と、戦争の愚かさを笑い飛ばす洗練されたエスプリが光るフランス映画黄金期の代表作。

女だけの都
La Kermesse heroique
(フランス・ドイツ 1935)

[製作]  ルイ・レヴィ
[監督]  ジャック・フェデー
[原作]  シャルル・スパーク
[脚本]  ロベール・A・ステムル/ベルナール・ジマー
[撮影]  ハリー・ストラドリング
[音楽]  ルイ・ベイツ
[ジャンル]  コメディ/戦争/恋愛
[受賞]
ナショナル・ボード・オブ・レビュー外国映画賞
NY批評家協会賞外国語映画賞
ヴェネツィア国際映画祭監督賞

キャスト

フランソワーズ・ロゼー
(市長夫人コルネリア)

ジャン・ミュラ (アリバーレス公)
アンドレ・アレルム (市長)
ルイ・ジューヴェ(従軍司祭)
ミシュリーヌ・シェイレル (シスカ)
ベルナール・ランクレ (ヤン・ブリューゲル)


受賞・ノミネートデータ

  • 評価
    • 1936年のヴェネツィア国際映画祭で監督賞を受賞。さらにフランス映画批評家協会賞、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞など、世界各地で絶賛を浴びました。17世紀フランドル絵画を彷彿とさせる美術と撮影は、当時の技術の最高到達点と評されています。

      また、公開当時はベルギーなど一部の地域で、フランドルの男たちを滑稽に描いた内容が愛国心を傷つけるとして上映禁止騒動が起きましたが、現在では反戦のメッセージを込めた知的な喜劇として映画史にその名を刻んでいます。


あらすじ:男たちの沈黙と女たちの饗宴

1616年、スペインの支配下にあったフランドル地方の静かな街。ある日、スペインの精鋭軍が宿泊のためにこの街へ進軍してくるという知らせが入る。冷酷な軍隊に虐殺や略奪を受けるとパニックに陥った市長をはじめとする男たちは、戦うこともできず、死んだふりをして難を逃れようと情けない隠れ工作に奔走する。

それを見かねた市長夫人コルネリア(フランソワーズ・ロゼー)は、女たちを招集。「力で勝てないのなら、最高のおもてなしで彼らを骨抜きにしましょう」と宣言する。女たちは街中を美しく飾り立て、豪華な料理を準備して、着飾った姿でスペイン軍を迎え入れる。殺気立っていた軍隊は、予想もしなかった華やかな歓迎と女たちの美しさに毒気を抜かれ、街は血なまぐさい戦場ではなく、一夜限りの賑やかなお祭り(ケルメス)の会場へと変貌する。

スペイン軍の指揮官たちは、市長夫人の機知に富んだ会話と気品にすっかり魅了され、何事もなく一夜を過ごす。翌朝、軍隊が街を去る際、指揮官は街を破壊しなかったばかりか、手厚いもてなしに感謝して税金の免除を約束する。

軍隊が見えなくなると、それまで隠れていた市長や男たちは這い出してきて、自分たちの「死んだふり」作戦が功を奏したのだと誇らしげに手柄を主張する。夫をはじめとする男たちの浅ましさに呆れながらも、コーネリアはそれを否定せず、余裕の微笑みで見守る。街は守られ、平和が戻った。女たちの勇気と知恵が、一滴の血も流さずに歴史を動かしたのである。


エピソード・背景

  • 名匠ジャック・フェデーと妻の共演
    主演の市長夫人を演じたフランソワーズ・ロゼーは、監督フェデーの実生活での妻です。彼女の堂々たる演技は、この映画の芯となっており、夫婦の信頼関係が名作を生む原動力となりました。
  • フランドル絵画の再現
    フェデー監督は、17世紀の画家ブリューゲルやハルス、フェルメールらの絵画の世界を銀幕に再現することに徹底的にこだわりました。衣装、調度品、光の当たり方に至るまで、全編が動く名画のような美しさを誇っています。
  • ルイ・ジューヴェの怪演
    フランス劇壇の重鎮ルイ・ジューヴェが、スペイン軍の従軍司祭役で出演。不気味さとユーモアを湛えた独特の存在感で、作品の格調を一段引き上げています。
  • 戦争への皮肉とエスプリ
    公開当時のヨーロッパは再びナチスの脅威など戦雲が垂れ込めていた時期であり、武器ではなく「知恵と饗宴」で軍隊を無力化する物語は、非常に鋭い政治風刺でもありました。
  • 撮影の困難さ
    街のセットは巨大で細密に作られ、数千人のエキストラが動員されました。特にスペイン軍の入城シーンの重厚感は、当時のスタジオ撮影の限界を突破したと言われています。


まとめ:作品が描いたもの

『女だけの都』は、人間の愚かさと強さを、笑いという最高のフィルターを通して描き出した珠玉の一作です。この映画が問いかけるのは、「真の勇気とは何か」という問いです。鎧を纏い武器を持つ男たちが臆病風に吹かれる一方で、エプロンを締め、笑顔で敵を迎え入れる女たちの姿は、極めて痛快で現代的なテーマを秘めています。

ジャック・フェデー監督の演出は、細部まで行き届いたリアリズムと、フランスらしい軽妙なエスプリが見事に融合しています。略奪の恐怖を饗宴に変えるという逆転の発想は、暴力に対する文化の勝利をも象徴しており、その根底には深い人間賛歌が流れています。

豪華絢爛な映像の裏側で、冷徹なまでに「男の見栄」を皮肉り、しなやかに生きる女たちの知恵を讃える。本作は、映画がただの娯楽ではなく、鋭い視点と品格を持った「芸術」であることを改めて証明しています。


〔シネマ・エッセイ〕

画面の隅々から、芳醇なワインの香りと17世紀の空気が漂ってくるようです。フランソワーズ・ロゼー演じる市長夫人の、あの凛とした佇まいと、すべてを見透かしたような深い瞳。彼女の言葉ひとつ、微笑みひとつで、強靭な軍隊が牙を抜かれた子犬のようになっていく様は、何度観ても最高のカタルシスを与えてくれます。

「力には力を」という悲しい連鎖を、優雅な饗宴で断ち切るという彼女たちの戦い方は、なんと気高く、そして美しいのでしょう。最後に何食わぬ顔で手柄を横取りする男たちを、軽蔑するのではなく「仕方ないわね」と笑い飛ばす器の大きさ。そこに、フランス映画が誇る成熟した精神を感じずにはいられません。

どんなに不穏な時代にあっても、美しさとユーモアを忘れないこと。モノクロの銀幕に広がるフランドルの風景は、時を経てもなお、私たちに生きるためのしなやかな強さを教えてくれるのです。

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