パリのホテルに響くチェロの調べ。恋を知らない少女が仕掛けた、甘く切ない秘密の偽装劇。

名匠ビリー・ワイルダー監督が、ロマンチック・コメディの黄金期を象徴するヒロインのオードリー・ヘプバーンと、ハリウッドの大スターであるゲイリー・クーパーを迎えて贈るロマンチック・コメディの傑作。
パリを舞台に、私立探偵の娘であるうぶな音楽学生と、世界を股にかける大富豪のプレイボーイが繰り広げる恋の駆け引きを描く。
名曲「魅惑のワルツ(Fascination)」に乗せて描かれる、洒脱なユーモアと切ない情感が光る不朽のラブロマンス。
昼下りの情事
Love in the Afternoon
(アメリカ 1957)
[製作] ビリー・ワイルダー
[監督] ビリー・ワイルダー
[原作] クロード・アネ
[脚本] ビリー・ワイルダー/I・A・L・ダイアモンド
[撮影] ウィリアム・C・メラー
[音楽] フランツ・ワックスマン
[ジャンル] 恋愛/ドラマ
キャスト

ゲイリー・クーパー
(フランク・フラナガン)

オードリー・ヘプバーン
(アリアーヌ・シャヴァシー)

モーリス・シュヴァリエ
(クロード・シャヴァシー)
ヴァン・ドゥード (ミシェル)
ジョン・マクガイヴァー (ムシューX)
ライズ・ブールダン (マダムX)
受賞・ノミネートデータ
| 受賞年 | 賞 | 部門 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1958 | 第15回ゴールデングローブ賞 | 最優秀作品賞(ミュージカル・コメディ部門) | ノミネート |
| 1958 | 第15回ゴールデングローブ賞 | 最優秀主演男優賞(ゲイリー・クーパー) | ノミネート |
| 1958 | 第15回ゴールデングローブ賞 | 最優秀主演女優賞(オードリー・ヘプバーン) | ノミネート |
| 1958 | 第10回全米脚本家組合(WGA)賞 | 最優秀アメリカ・コメディ脚本賞 | 受賞 |
評価
ビリー・ワイルダー監督と脚本家I・A・L・ダイアモンドの初コンビ作であり、洗練されたダイアログと洒脱な会話劇が高く評価された名作です。 パリの情緒漂う雰囲気の中で、オードリー・ヘプバーンの可憐さとゲイリー・クーパーの渋みのある魅力が見事に噛み合い、単なるコメディにとどまらない大人の甘酸っぱい情愛を描いたラブロマンスとして長年愛され続けています。
あらすじ:探偵の娘と年上のプレイボーイ
花都パリ。音楽院でチェロを学ぶ純真な少女アリアーヌ(オードリー・ヘプバーン)は、私立探偵である父クロード(モーリス・シュヴァリエ)の調査ファイルを持ち出し、密かに読むのが趣味だった。ある日彼女は、依頼人であるX氏が「妻と浮気しているアメリカの大富豪フランク・フラナガン(ゲイリー・クーパー)を今からホテル・リッツで射殺する」と激怒しているのを知る。
見過ごせなくなったアリアーヌはホテルへ急行し、間一髪のところでフラナガンに危険を知らせて命を救う。世界中の女性を魅了してきたプレイボーイのフラナガンは、助けてくれた可憐なアリアーヌに興味を抱き、「明日の午後(昼下がり)にホテルで会おう」と誘う。
恋愛経験のないアリアーヌだったが、彼に夢中になってしまい、彼と対等に渡り合うため「自分は数々の男たちと浮名を流してきた経験豊富なプレイボーイの恋人」だと装って、午後だけの秘密の逢瀬を重ねるようになる。
ミステリアスな「午後だけの恋人」アリアーヌに翻弄され、本気で惹かれ始めていくフラナガン。しかし彼女は素性を明かそうとせず、架空の男性たちの名前を挙げた録音テープを渡してフラナガンを焦らせる。ついに耐えかねたフラナガンは、噂に聞く有名な私立探偵に「自分の恋人の正体を調べてほしい」と調査を依頼する。だが、その探偵こそがアリアーヌの父クロードであった。
愛娘が危険なプレイボーイと関わっていることを知ったクロードは、フラナガンを訪ね、「娘は本気であなたを愛している。遊ばないでやってほしい」と切実に訴える。身を引くことを決意したフラナガンはパリを去るため列車に乗り込む。
駅のホームで見送るアリアーヌは、涙をこらえながら「私は平気。来週には別の男性と旅行に行くわ」と最後まで強がり続ける。しかし、動き出した列車の横を泣きながら走る彼女の姿に、フラナガンはついに抑えきれない愛を確信する。彼はアリアーヌの手を強く引っ張り上げて列車に抱き上げ、二人で永遠の愛を誓い合いながら旅立っていくのだった。
エピソード・背景
- ビリー・ワイルダーとI・A・L・ダイアモンドの初タッグ
のちに『お熱いのがお好き』や『アパートの鍵貸します』など、映画史に残る傑作を連発することになるビリー・ワイルダー監督と名脚本家I・A・L・ダイアモンドの記念すべき初共同作業となりました。 - 年齢差をめぐる配役の苦心
撮影当時、ゲイリー・クーパーは55歳、オードリー・ヘプバーンは27歳であり、約30歳差のキャスティングには賛否がありました。ワイルダー監督はクーパーの影の付け方や照明に気を配り、大人の落ち着きと渋みを持つ紳士として演出しました。 - テーマ曲「魅惑のワルツ」の大ヒット
劇中で流れる「魅惑のワルツ(Fascination)」は、元々は1904年に作曲された古い曲でしたが、本作で使用されたことで世界中で爆発的に大ヒット。作品のエレガントで甘美な世界観を象徴するナンバーとなりました。 - モーリス・シュヴァリエの粋な存在感
アリアーヌの父親であり探偵のクロード役を演じたモーリス・シュヴァリエは、娘を温かく見守るチャーミングな父親像を好演。劇中のナレーションも担当し、パリのエスプリ漂うストーリーテリングで映画を盛り上げました。 - ホテル・リッツなどでのパリロケ
パリの最高級ホテル「ホテル・リッツ」や、賑やかな街並み、駅のホームなど、パリ現地でのロケーション撮影が作品に本格的な気品とクラシカルな情緒を与えています。 - アンプラグドなジプシー・バンドの演出
フラナガンがどこへ行くのにも同行させるジプシーの音楽隊が、部屋の雰囲気を盛り上げるためにヴァイオリンを奏でる演出は、ワイルダー監督ならではの洗練されたユーモアとコメディセンスにあふれています。
まとめ:作品が描いたもの
経験豊富な大人の男と、大人ぶった無垢な少女が繰り広げる、切なくも可笑しな恋の駆け引きを描いたロマンチック・コメディの金字塔です。背伸びをした偽りの自分を脱ぎ捨て、素直な感情を解き放ったときに訪れる「真実の愛」の尊さを、洗練されたパリの美しさとともに描き出しています。
〔シネマ・エッセイ〕
午後の光が差し込むリッツの豪華な客室、甘く流れるヴァイオリンのワルツ。スクリーン全体を包み込む優雅な雰囲気の中で繰り広げられるのは、幼さと大人の情愛が交錯する愛おしい恋の心理劇です。
この作品の輝きを支えているのは、主演二人の繊細な身体表現と表情の演技です。オードリー・ヘプバーンは、顎を少し上げて大人びた煙草の吸い殻を真似てみせる不器用な所作や、偽りの恋歴を語りながら揺れる大きな瞳で、恋に背伸びする少女の可憐さと一途さを完璧に表現しています。一方のゲイリー・クーパーも、眉間に刻まれた深いくびれと困惑に満ちた眼差しで、少女の虚勢を見抜きつつも、いつの間にか本気で心を取り乱していく熟年男性の照れと情熱を味わい深く体現しています。
ラストシーン、走り出す列車のステップで、強がりを言いながらも溢れる涙を止められないアリアーヌ。その華奢な腕をクーパーが力強く引き上げ、抱きしめる瞬間。二人の視線が重なり、偽りが本物の愛へと変わるその劇的な足取りは、いつまでも胸を熱くする最高に浪漫に満ちた余韻を残してくれます。

