南国の美しき島に流れる名曲の数々。偏見を乗り越え、戦火のなかで真実の愛を掴む壮大なミュージカル。

リチャード・ロジャース(作曲)とオスカー・ハマースタイン2世(作詞)によるブロードウェイの大ヒット・ミュージカルを、舞台版も手掛けたジョシュア・ローガン監督が自ら映画化。
第二次世界大戦下の南太平洋の島を舞台に、米軍の看護師とフランス人農園主、そして若き中尉とポリネシア人少女の恋を描く。
ピューリッツァー賞を受賞したジェームズ・A・ミッチナーの小説を原作に、人種偏見という重厚なテーマに正面から挑んだ金字塔的ミュージカル映画。
南太平洋
South Pacific
(アメリカ 1958)
[製作] バディ・アドラー
[監督] ジョシュア・ローガン
[原作] ジェームズ・ミッチェナー
[脚本] オスカー・ハマースタイン2世/ジョシュア・ローガン/ポール・オズボーン
[撮影] レオン・シャムロイ
[音楽] リチャード・ロジャース/オスカー・ハマースタイン2世
[ジャンル] ミュージカル/恋愛/戦争
[受賞] アカデミー賞 音響賞
キャスト
ミッツィ・ゲイナー (ネリー・フォーブッシュ)

ロッサノ・ブラッツィ
(エミール)
ジョン・カー (ジョゼフ・ゲイブル)
アニタ・ホール (ブラッディ・メアリー)
レイ・ウォルストン (ルーサー)
フランス・ニュエン (リアット)
ラス・ブラウン (ジョージ・ブラケット)
フロイド・シモンズ (ビル・ハービソン)
受賞・ノミネートデータ
| 受賞年 | 賞 | 部門 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1959 | 第31回アカデミー賞 | 録音賞(フレッド・ハインズ) | 受賞 |
| 1959 | 第31回アカデミー賞 | 撮影賞(カラー) | ノミネート |
| 1959 | 第31回アカデミー賞 | 音楽賞(ミュージカル映画) | ノミネート |
| 1959 | 第16回ゴールデングローブ賞 | 最優秀作品賞(ミュージカル・コメディ部門) | ノミネート |
| 1959 | 第16回ゴールデングローブ賞 | 最優秀主演女優賞(ミッツィ・ゲイナー) | ノミネート |
評価
ブロードウェイで数々の記録を打ち立てた傑作ミュージカルを、ハワイのロケーション撮影と大画面(70mmトッドAO方式)の圧倒的な迫力で映像化した超大作です。
「魅惑の宵(Some Enchanted Evening)」や「バリ・ハイ(Bali Ha’i)」をはじめとする歴史的名曲の数々と、当時のアメリカ映画としては異例だった人種差別問題へ踏み込んだストーリー展開が高く評価され、サウンドトラック盤は世界的な大ヒットを記録しました。
あらすじ:南国の島での出会いと愛の芽生え
1943年、第二次世界大戦下の南太平洋に浮かぶ南国の島。アーカンソー州出身の天真爛漫な米海軍看護師ネリー(ミッツィ・ゲイナー)は、島で暮らす年上の裕福なフランス人農園主エミール(ロッサノ・ブラッツィ)と出会い、互いに強く惹かれ合っていく。
一方、日本軍の動向を監視する危険な秘密任務を帯びて島に赴任してきた情熱的なケーブル中尉(ジョン・カー)は、島の名物露天商ブラディ・メアリー(ジュニータ・ホール)の案内で神秘の島「バリ・ハイ」を訪れる。そこで彼は、メアリーの娘である純真なポリネシア人少女リアット(フランス・ニュイエン)と出会い、言葉の壁を越えて恋に落ちる。
しかし、二つの恋には「人種差別と偏見」という深い溝が立ちはだかっていた。ネリーはエミールに現地女性との間に生まれた二人の幼い連れ子がいることを知り、自らの無意識の偏見から戸惑いを隠せない。またケーブル中尉も、故郷の保守的な上流階級の家族を恐れ、リアットとの結婚を踏み切れないでいた。
自分の心の狭さに悩み、一度はエミール求婚を拒絶して逃げ出したネリー。そしてリアットへの愛を確信しながらも社会的な視線に縛られる苦悩を、「偏見は生まれつきではなく、教え込まれるものだ」と歌い上げるケーブル中尉。
失意のエミールと決意を固めたケーブル中尉は、日本軍艦隊の動きを偵察するため、危険極まりない敵陣背後の島への潜入任務をともに志願する。二人の命がけの通信によって米軍は攻勢に転じるが、過酷な戦闘の最中、ケーブル中尉は敵の銃弾に倒れて戦死してしまう。
エミールが生還できるかわからない絶望的な状況に直面し、ネリーは初めて自らの愚かな偏見を悔やみ、エミールを心から愛していることに気づく。彼女はエミールの家に留まり、彼の残された幼い二人の子供たちを実の母親のように慈しみながら、彼の帰りを待ち続ける。
作戦が成功し、やがて無事に帰還したエミール。静かに食卓を囲むネリーと子供たちの輪の中にエミールが加わり、互いに手を取り合う。かつて彼らの間にあった偏見の壁は姿を消し、ひとつになった家族の温かな風景とともに物語は幕を閉じる。
エピソード・背景
- 主演陣の吹き替えにまつわる裏話
歌唱力が重視されるミュージカル映画ですが、実は主要キャストの多くが歌声を専門の歌手に吹き替えられています。ロッサノ・ブラッツィはメトロポリタン歌劇場のオペラ歌手ジョルジョ・トッツィが、ジョン・カーやジュニータ・ホールもプロの歌手が担当。自らの声で歌ったのは主演のミッツィ・ゲイナーとレイ・ウォルストンのみでした。 - カラーフィルター演出を巡る物議
ジョシュア・ローガン監督は登場人物の感情が高ぶる歌のシーンで、画面全体を黄色や赤、青などの単色カラーフィルターで染めるという画期的な演出を試みました。しかし、ロケ地の美しい自然を覆ってしまうとして公開当時は賛否両論を呼びました。 - ハワイ・カウアイ島での壮大なロケーション
舞台となる架空の島を再現するため、ハワイ諸島のカウアイ島で大規模なロケ撮影が行われました。南国のエメラルドグリーンの海や豊かな緑がスクリーンいっぱいに広がり、作品の異国情緒を決定づけています。 - ドリス・デイやエリザベス・テイラーも候補に
ヒロインのネリー役にはドリス・デイやエリザベス・テイラーなど当時のトップスターたちが検討されていました。最終的にダンスと歌の確かな実力を持っていたミッツィ・ゲイナーが射止め、彼女の代表作となりました。 - 全英チャート115週連続1位のサントラ盤
本作のサウンドトラック・アルバムは音楽史に残る大記録を打ち立てました。イギリスのアルバムチャートではなんと通算115週連続で1位を獲得し、この記録は現在も破られていません。 - 人種差別問題へ切り込んだ先進的なメッセージ
劇中でケーブル中尉が歌う「 Carefully Taught(不意打ちのように教え込まれて)」は、幼少期に大人が植え付ける人種差別の偏見を直接批判した楽曲です。公開当時、アメリカ南部などで強い反発を受けながらも、原作者と制作者側は一切の歌詞変更を拒否してメッセージを貫きました。
まとめ:作品が描いたもの
美しい南国のリゾート風景と甘美なメロディの裏側に、「人の心に潜む差別意識」という重厚なテーマを織り込んだ傑作ミュージカルです。愛することへの恐怖や無知による隔たりを乗り越え、人間が真の理解と家族の絆を手に入れていく姿を描いています。
〔シネマ・エッセイ〕
風に揺れるヤシの木、どこまでも青い海、そして遠くから聞こえてくる「バリ・ハイ」の神秘的な調べ。画面を満たす圧倒的な色彩と音楽は、私たちを一瞬で魅惑のバカンスへと連れ出してくれます。
しかし、この夢のような楽園で試されるのは、人間の心の奥底にある寛容さです。愛しながらも相手の背景や人種を受け入れられずに葛藤する主人公たちの姿は、華やかな歌声の裏にある生々しい人間の弱さを浮き彫りにします。だからこそ、すべての迷いを捨てて静かに食卓を囲むラストシーンの温もりが、どんなドラマチックな歌声よりも深く、心に優しく響き渡るのです。

