軍の上層部が仕組んだ理不尽な見せしめ裁判。理不尽な権力に抗い、兵士の尊厳を守ろうとした男の激闘。

名匠スタンリー・キューブリック監督が、実話を基にしたハンフリー・コッブの同名小説を全編にわたる圧倒的な緊迫感で映画化した戦争人間ドラマの金字塔。
第一大戦の西部戦線において、軍上層部の功名心による無謀な作戦失敗の責任を押し付けられ、不当な軍事裁判で処刑されそうになる兵士たちと、彼らを命がけで弁護する前線指揮官の葛藤を描く。
主演のカーク・ダグラスが見せた怒りと正義感に満ちた迫真の演技と、キューブリック特有の幾何学的で冷徹なカメラワークが高く評価された不朽の名作。
突撃
Paths of Glory
(アメリカ 1957)
[製作] ジェームズ・B・ハリス/スタンリー・キューブリック/カーク・ダグラス
[監督] スタンリー・キューブリック
[原作] ハンフリー・コッブ
[脚本] スタンリー・キューブリック/コールダー・ウィリンガム/ジム・トンプソン
[撮影] ジョージ・クラウス
[音楽] ジェラルド・フリード
[ジャンル] ドラマ/戦争
キャスト

カーク・ダグラス
(ダックス大佐)
ラルフ・ミーカー (フィリップ・パリス)
アドルフ・マンジュー (ジョルジュ・ブルラール将軍)
ジョージ・マクレディ (ポール・ミロー将軍)
ウェイン・モリス (ロジェット)
ジョー・ターケル (ピエール・アルノー)
ティモシー・ケリー (モーリス・フェロル)
バート・フリード (ボーランジェ)
受賞・ノミネートデータ
| 受賞年 | 賞 | 部門 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1958 | 英国アカデミー賞 | 総合作品賞 | ノミネート |
| 1958 | イタリア映画銀リボン賞 | 最優秀外国監督賞(スタンリー・キューブリック) | 受賞 |
| 1959 | 全米映画批評家協会賞 | 作品賞 / 監督賞 | 選出 |
評価
権力者の保身と野心によって末端の兵士たちが「使い捨てのコマ」として処理されていく軍隊組織の非道さを、冷徹かつ圧倒的なリアリズムで描いた戦争映画の最高峰として知られています。
直線的に構築されたトレンチ(塹壕)をトラッキングで捉える移動撮影の凄絶さや、軍法会議における倫理的対立のドラマ性が絶賛され、反戦映画としての強いメッセージ性は現在も衰えることなく高く評価され続けています。
あらすじ:無謀な「アタック・ヒル」攻略命令
1916年、第一次世界大戦下のフランス・ドイツ戦線。フランス軍のミロー将軍(ジョージ・マクレディ)は、ブルラール少将(アドルフ・マンジュー)から昇進を提示され、攻略不可能なドイツ軍の強固な陣地「アタック・ヒル(安息の丘)」の奪取を命令される。
前線指揮官であるダックス大佐(カーク・ダグラス)は、作戦が無謀であり兵士たちの過半数が死に瀕すると猛反発するが、命令を強制されて出撃を余儀なくされる。
翌朝、激しい砲撃が飛び交う中、突撃が開始されるが、圧倒的な火力を前に第一波の兵士たちは壊滅。恐怖のあまり塹壕から出ることすらできない兵士たちを目撃したミロー将軍は狂乱し、自身の保身と命令違反への報復として、自軍の塹壕へ味方砲撃を命じるという暴挙に出る。
砲兵隊長がこれを拒否したため作戦は失敗。将軍は失敗の責任を「兵士たちの臆病さ」になすりつけ、全軍の面目を保つ見せしめとして、各中隊から抽選で選ばれた3人の兵士を不法に「敵前逃亡・抗命罪」で死刑に処すと宣告するのだった。
元弁護士であるダックス大佐は、不当に選出された3人の兵士たちの弁護人として軍事裁判に立ち、軍上層部の欺瞞と矛盾を激しく告発する。しかし、最初から判決が決まっていた軍事審判は形式的なものに過ぎず、証言も却下され、3人の兵士には死刑判決が下されてしまう。
ダックス大佐は「ミロー将軍が味方の塹壕を砲撃しようとした」事実を裏付ける砲兵隊長の証言を入手し、ブルラール少将に突きつけて処刑の停止を乞う。しかし、少将もまた軍の規律と面目を優先し、処刑命令を撤回しなかった。翌朝、ついに3人の兵士は全軍の前で銃殺される。
処刑後、ブルラール少将は「大佐の狙いはミローの失脚と自身の昇進だったのだろう」と勘違いし、ダックスにミローの不祥事を告発した功績として昇進を打診する。ダックスは大爆発し、軍上層部の腐敗した野心を吐き捨てるように罵倒するのだった。
ラスト、居酒屋で捕虜となった1人の若いドイツ人少女(クリスティアーヌ・キューブリック)が荒くれたフランス兵たちの前で歌を歌わされる。最初は下品にはやし立てていた兵士たちだったが、彼女の儚く美しい歌声に触れるうちに瞳に涙を浮かべ、人間性を手放していなかったことを証明する。ダックス大佐はその光景を静かに見つめ、再び過酷な前線へと向かう命令を下すのだった。
エピソード・背景
- 当時のフランスなどで巻き起こった上映禁止運動
フランス軍上層部の腐敗と無能さを露骨に暴いた内容であったため、フランス国内では軍の抗議を受けて長年にわたり公開が禁止・自粛されました(正式上映は1975年まで持ち越されました)。また、スイスや米軍基地内などでも上映禁止処置が取られるなど大きな物議を醸しました。 - カーク・ダグラスの情熱と出資
脚本を読んだカーク・ダグラスは「この映画は1ペニーも儲からないかもしれないが、作らなければならない」と直感。自身の映画製作会社(ブライナ・プロ)を通じて出資・主演を買って出たことで、当時まだ若手だったキューブリックのプロジェクトが実現しました。 - キューブリック独特の移動撮影と幾何学的構図
兵士たちがひしめく泥まみれの複雑な塹壕を、カメラが前後にダイナミックに動きながら追う長まわしの撮影手法は、観客をまるで戦場の中に立ち合わせるような圧巻の臨場感を生み出しました。 - ヒロイン役のクリスティアーヌとの結婚
ラストシーンでドイツ民謡「忠実なフザール(Der treue Husar)」を歌い、兵士たちを感動させる少女役を演じたクリスティアーヌ・ハーランは、のちにキューブリック監督と結婚。監督が亡くなるまで添い遂げた生涯の伴侶となりました。 - タイトル『Paths of Glory』の由来
タイトルは18世紀の詩人トマス・グレイの「エレジー(墓園の哀歌)」の一節「栄光の小道(Paths of Glory)は墓場へと通じる」から採られています。国家や軍が掲げる「栄光」がいかに無力な死と惨劇へ通じているかを皮ローカルに暗示しています。 - 実際の事件「スーアンの不法処刑」がモデル
原作小説および映画のストーリーは、1915年に第一次世界大戦の「スーアンの戦い」で実際に起きた、フランス軍上層部による兵士4名の不当な銃殺事件(のちに無罪と認定)にインスピレーションを受けて執筆されました。
まとめ:作品が描いたもの
国家や軍隊という巨大な組織機構の中で、個人の命や尊厳がいかに軽視され、権力者の自己保身の犠牲となっていくかを描いた辛辣な社会派戦争ドラマです。絶望的な理不尽の中で自らの倫理観と正義を貫こうとする一人の人間の戦いと、戦場に一瞬だけ漂う人間性の美しさを力強く描き出しています。
〔シネマ・エッセイ〕
どこまでも続く狭く泥まみれの塹壕と、冷酷なまでに整然と組み上げられた豪華な城館の対比。スクリーンの至る所から漂うのは、命を張る者たちと、それを安全な高みから駒として動かす者たちの埋めがたい断絶の匂いです。
この作品の圧倒的な緊迫感を支えているのは、主演カーク・ダグラスの気骨あふれる存在感と静かな演技の凄みです。彼は、理不尽な命令を前にした時の硬く引き締まった顎のラインや、軍法会議で腐敗した上層部に立ち向かう際の低く怒りを孕んだ声のトーン、そして処刑を止められなかった時の苦悶に満ちた強い眼差しで、理想と現実の狭間で葛藤する指揮官の矜持を見事に体現しています。対するジョージ・マクレディの冷血な微笑みや、アドルフ・マンジューの政治的な狡猾さを漂わせる所作のディテールが、ダックス大佐の孤立無援の戦いをいっそう際立たせます。
ラスト、居酒屋で捕虜の少女が怯えながら歌う素朴な旋律に、荒みきった兵士たちが静かに涙を流す場面。その光景を店外から見つめるダックス大佐の瞳に宿る、微かな救いと哀しみ。戦争という狂気の中でも決して消えることのない「人間の心」を確かめ直す彼の横顔は、絶望的な世界に射す一筋の光として、いつまでも胸に深く残り続けます。

