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鶴は翔んでゆく Letyat zhuravli 1957|キャスト・あらすじ【ネタバレ】

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空を仰ぐ鶴の群れ、引き裂かれた幼い恋。戦火に翻弄されながらも生を抱きしめる女の哀切。

ミハイル・カラトーゾフ監督が全高の情熱を注ぎ、ソ連映画界に「スターリニズムからの解放(破融・雪解け)」をもたらした金字塔的大傑作。

第二次世界大戦(大祖国戦争)下のモスクワを舞台に、出征した恋人を待ち続けるヒロインの過酷な運命と情熱を描く。

主演タチアナ・サモイロワの情熱的で儚い美しさと、撮影監督セルゲイ・ウセフスキーによる超人的な躍動感あふれるカメラワークが見事に融合し、ソ連映画として唯一のカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した不朽の歴史ラブロマンス。

鶴は翔んでゆく
Letyat zhuravli
(ソ連 1957)

[製作] ミハイル・カラトーゾフ
[監督] ミハイル・カラトーゾフ
[原作] ウィクター・ローゾフ
[脚本] ウィクター・ローゾフ
[撮影] セルゲイ・ウルセフスキー
[音楽] モイセイ・ワインバーグ
[ジャンル] ドラマ/恋愛/戦争
[受賞] カンヌ映画祭 グランプリ/特別賞

キャスト

タチアナ・サモイロワ (ヴェロニカ)
アレクセイ・バターロフ (ボリス)
ヴァシリー・メルクーリエフ (ヒョードル)
アレクサンダー・シュワリン (マリク)


受賞・ノミネートデータ

受賞年部門結果
1958第11回カンヌ国際映画祭最高賞(パルム・ドール)受賞
1958第11回カンヌ国際映画祭特別表彰(タチアナ・サモイロワ)受賞
1959第12回英国アカデミー賞総合作品賞ノミネート
1959第12回英国アカデミー賞外国女優賞(タチアナ・サモイロワ)ノミネート


評価

従来のソ連映画にありがちだった「国家の英雄崇拝」や「戦意高揚プロパガンダ」を完全に排し、戦争によって人生と心を打ち砕かれた「ひとりの個人の悲劇と葛藤」を叙情豊かに描き切ったことで世界に衝撃を与えた傑作です。

カンヌ国際映画祭で満場一致のパルム・ドールを受賞。特に革新的な躍動感を見せるカメラワークと、タチアナ・サモイロワが魅せた圧倒的な情熱と透明感あふれる演技は、現在も映画史上の奇跡として世界中で絶賛され続けています。

あらすじ:モスクワの空と恋人たちの別れ

1941年、夜明けのモスクワ。空を翔んでいく鶴の群れを見上げる若き恋人たち、ヴェロニカ(タチアナ・サモイロワ)とボリス(アレクセイ・バタロフ)。二人は愛に満ちた輝かしい未来を信じて疑わなかった。しかし、その平和はナチス・ドイツのソ連侵攻によって一瞬にして打ち砕かれる。

ボリスは家族やヴェロニカに相談することなく自ら志願兵となり、前線へと出征していく。出征の日、混雑する街中で二人はまともな別れも告げられないまま離れ離れになってしまう。

激しさを増す空爆によって両親と自宅を一度に失い、絶望の底に突き落とされたヴェロニカは、ボリスの父親ヒョードル医師の家に引き取られる。そこで彼女は、以前から彼女に執着していたボリスの従兄弟マルク(アレクサンドル・シショフ)から空襲の混乱に乗じて力づくで迫られ、意に沿わぬ形で彼と結婚させられてしまうのだった。

ボリスへの不貞の罪悪感と自責の念に押しつぶされそうになりながらも、ヴェロニカは「ボリスは必ず生きて戻ってくる」と信じ続け、彼の帰りを待ち続ける。一方、前線の泥沼と化した泥濘の中で、ボリスはヴェロニカの面影と幻想(回転する白樺の木々と祝言の幻影)を見つめながら、敵の弾丸に倒れて戦死していた。

ボリスの死を知らぬまま、疎開先の病院で看護師として働くヴェロニカ。夫となったマルクの不誠実さと卑劣さに気づいた彼女は彼のもとを去り、身を削るようにして戦傷兵たちの世話に没頭する。

やがて終戦を迎え、勝利に沸くモスクワの駅に復員列車が到着する。色とりどりの花束を手にした人々が歓喜の声を上げるなか、ヴェロニカは人混みをかき分け、必死の思いでボリスの姿を探し求める。しかし、ボリスの戦友から差し出されたのは、彼が戦死したという残酷な真実と、彼が遺した写真だけだった。涙を流しながらも、彼女は手にした花束を周りの人々や生還した兵士たちに配り始める。ふと空を見上げると、かつてボリスと見上げた時と同じように、美しい鶴の群れが平和な空を翔んでいくのだった。


エピソード・背景

  • ソ連映画唯一の「パルム・ドール」単独受賞
    本作は、カンヌ国際映画祭においてソ連映画(ロシア映画)史上唯一となる最高賞「パルム・ドール」を受賞した作品です。スターリン死後の政策転換(フルシチョフによる「雪解け」)が生んだ芸術的自由の最高の結実と称えられました。
  • 撮影監督ウルセフスキーの伝説的なカメラワーク
    撮影を担当したセルゲイ・ウルセフスキーは、手持ちカメラの移動撮影、急激なパン、らせん階段を駆け上がる一発撮りの超ロングケージ撮影など、当時の映画界の常識を覆す躍動的で情熱的な映像美を創出しました。
  • タチアナ・サモイロワの国際的な大ブレイク
    主演のサモイロワが見せたエキゾチックで情熱的な美しさは、西側諸国にも強い衝撃を与えました。カンヌでの受賞後、ピカソから「君は真の天才だ」と絶賛され、ハリウッドからも出演オファーが殺到しました。
  • ボリスの臨終シーン(白樺の回転)の撮影秘話
    前線でボリスが撃たれ、倒れ込みながら見上げる白樺の木々が高速で回転し、ヴェロニカとの幻の結婚式が重なる幻想的なシークエンスは、映画史に残る表現主義的な名場面として知られています。
  • 「不貞のヒロイン」への国内での当初の反発
    出征した恋人を待ちきれずに別の男と結婚してしまうヴェロニカの造形は、当時のソ連国内の保守派(フルシチョフ自身を含む)から「道徳的でない」と批判を受けました。しかし、作品が持つ圧倒的な人間性と芸術性が世界中で支持され、評価を決定づけました。
  • 戯曲『永遠に生きるもの』が原作
    劇作家ヴィクトル・ローゾフの戯曲『永遠に生きるもの』を原作者自らが脚色。戦火の悲劇の中に、国家のためではなく「大切な人のために生き、傷つく」人間の尊厳を力強く盛り込みました。
  • 邦題『戦争と貞操』から『鶴は翔んでゆく』への改題
    1958年の日本初公開時には『戦争と貞操』というセンセーショナルな邦題で公開されました。しかし、作品が持つ詩的で気高い本質や「鶴」という象徴的なモチーフをより正しく表現するため、その後のリバイバル公開やソフト化の際に原題(Letyat zhuravli=鶴は飛んでいる)に忠実な『鶴は翔んでゆく』へと改題されました。

まとめ:作品が描いたもの

戦争という理不尽な暴威によって青春と愛を奪われながらも、罪悪感と傷を抱えて生き抜いた一人の女性の情熱と救済を描いた愛の詩篇です。国家の英雄美談ではなく、市井の人間が抱く素朴な愛、過ち、そして再生の過程を、目を見張るダイナミックな映像美で描き出しています。

〔シネマ・エッセイ〕

風に揺れる白いカーテン、降り注ぐ爆撃の火花、そしてどこまでも高く広がるモスクワの空。画面全体を駆け巡る疾走感あふれるカメラワークは、そのまま主人公ヴェロニカの激しく波打つ心音そのものです。

この作品を不滅の域へと押し上げているのは、主演タチアナ・サモイロワの溢れんばかりの情熱と繊細な身体表現です。大きな黒い瞳を濡らし、髪を振り乱して狂気と失意の街を駆け抜ける彼女の可憐で力強い足取り。出征するボリスを追って人混みをもがき進む際の焦燥に満ちた表情や、意に沿わぬ結婚に身を投げ打った後の虚ろな目差しなど、言葉にならない魂の悲鳴を全身で表現しています。対するアレクセイ・バタロフもまた、澄んだ優しい瞳と穏やかな微笑みで、一瞬で奪われてしまった「失われた平和」の尊さを静かに体現しています。

ラスト、再会の叶わなかった駅のホームで、溢れ出る涙を拭いもせず、手にした花束を周りの人々へ分け与えていくヴェロニカ。悲しみを抱えながらも誰かの幸せのために手を伸ばす彼女の横顔と、見上げる空を悠々と翔んでいく鶴の群れ。その美しい光景は、どんな過酷な時代をくぐり抜けても絶えることのない「生きることへの祝福」として、いつまでも観る者の心に眩しく焼きつきます。

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