互いを拒絶する白人と黒人。一本の手錠でつながれた二人が辿る、過酷な逃亡の果ての真実。

スタンリー・クレイマー監督が、当時のアメリカ社会に根強く存在していた人種差別という重いテーマに正面から挑んだ社会派サスペンス・ドラマの不朽の名作。
一筋縄ではいかない性格と肌の色を持つ二人の囚人が、一本の手錠でつながれたまま脱走し、衝突を繰り返しながらも次第に固い友情で結ばれていく姿を描く。
トニー・カーティスとシドニー・ポワティエの熱演が光り、アカデミー賞で脚本賞と撮影賞(白黒部門)を受賞した。
手錠のままの脱獄
The Defiant Ones
(アメリカ 1958)
[製作] スタンリー・クレイマー
[監督] スタンリー・クレイマー
[原作] ネイサン・E・ダグラス(ネドリック・ヤング)
[脚本] ネイサン・E・ダグラス/ハロルド・ジェイコブ・スミス
[撮影] サム・リーヴィット
[音楽] アーネスト・ゴールド
[ジャンル] サスペンス/ドラマ
[受賞]
アカデミー賞 撮影賞/オリジナル脚本賞(1958)
英国アカデミー賞 男優賞(シドニー・ポワティエ)/UN賞
ベルリン国際映画祭 (主演男優賞(シドニー・ポワティエ)
ゴールデン・グローブ賞 作品賞/主演男優賞(トニー・カーテイス、シドニー・ポワティエ)/国際評価作品賞/助演女優賞(カーラ・ウィリアムズ)
NY批評家協会賞 監督賞/作品賞/脚本賞
キャスト

トニー・カーテイス
(ジョン・‘ジョーカー’・ジャクソン)

シドニー・ポワティエ
(ノア・カレン)
カーラ・ウィリアムズ (女)
セオドア・バイケル (マックス・マラー保安官)
チャールズ・マッグロウ (フランク・ギボンズ)
ロン・チャニー・ジュニア (ビッグ・サム)
キング・ドノヴァン (ソリー)
クロード・エイキンズ (マック)
ホィット・ビッセル (ルー・ガンズ)
受賞・ノミネートデータ
| 受賞年 | 賞 | 部門 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1959 | 第31回アカデミー賞 | 脚本賞(原案・脚本:ネドリック・ヤング、ハロルド・ジェイコブ・スミス) | 受賞 |
| 1959 | 第31回アカデミー賞 | 撮影賞(白黒部門:サム・リーヴィット) | 受賞 |
| 1959 | 第31回アカデミー賞 | 作品賞・監督賞・主演男優賞(トニー・カーティス / シドニー・ポワチエ)ほか | ノミネート |
| 1959 | 第16回ゴールデングローブ賞 | 最優秀作品賞(ドラマ部門) | 受賞 |
| 1958 | 第8回ベルリン国際映画祭 | 男優賞(シドニー・ポワチエ) | 受賞 |
評価
社会問題を娯楽映画の枠組みの中で巧みに描く名手スタンリー・クレイマー監督の代表作であり、バディ・ムービー(相棒映画)の金字塔として映画史に刻まれている作品です。 白人優位の社会的偏見を抱くジョーカーと、社会的抑圧への強い怒りを秘めたノアという相反するふたりの心理的葛藤と変化を、スリリングな脱走劇とともにリアルに表現。
トニー・カーティスとシドニー・ポワティエの二人が揃ってアカデミー主演男優賞にノミネートされるなど、演技・脚本・撮影のすべてにおいて絶賛されました。
あらすじ:鎖でつながれた天敵同士の脱走
南部のある夜、囚人を護送していたトラックが嵐のなかで事故を起こし横転する。この隙に、手錠のチェーンで互いの手首をつながれた二人の受刑者、白人のジョーカー(トニー・カーティス)と黒人のノア(シドニー・ポワティエ)が暗闇に乗じて逃亡を果たす。
二人は根深い人種的偏見とお互いへの嫌悪感をむき出しにし、罵り合いながらも、警察の捜索隊と犬の群れから逃れるためには協力せざるを得ない。川の激流に呑み込まれかけたり、ターペンタイン(松脂)工場で町の人々に捕まりリンチに遭いそうになりながらも、二人は困難を乗り越えていく。
やがて彼らは、夫に捨てられ幼い息子と暮らす一人の孤独な女性(カーラ・ウィリアムズ)の民家にたどり着く。彼女はジョーカーに好意を抱き、タガネで二人の手錠を切断することに協力する。手錠から解放された二人だったが、女性はジョーカーと一緒に逃げるため、ノアを死の危険が待つ危険な底なし沼へと意図的に誘い込もうとしていた。
女性がノアを死地へ送る罠にはめたことを知ったジョーカーは怒りを顕にし、自分を愛する女性の手を振り払って、ノアのあとを追う。追いかけたジョーカーは女性の夫に背後から銃撃され、負傷しながらもノアに危険を知らせ、二人は再び合流する。
負傷したジョーカーを抱え、ノアは遠くから響く貨物列車の汽笛を目指して走る。線路にたどり着いたとき、低速で走る貨物列車が近づいてくる。健常なノアは飛び乗り、列車の上から傷ついたジョーカーへ手を伸ばす。ジョーカーも必死に手を伸ばし、二人はしっかりと手をつなぎ合うが、ジョーカーの体重と負傷による衰弱を支えきれず、ノアは自ら列車から飛び降りる。自由をつかむ唯一のチャンスを捨て、友の傍らに残ることを選んだのだった。
やがて、犬の鳴き声とともにマラー保安官(セオドア・バイケル)率いる捜索隊が二人に追いつく。木の下で体を寄せ合い、ノアが力強い歌声でブルースを口ずさむなか、保安官は銃を収め、互いの友情を証明した二人を静かに見つめるのだった。
エピソード・背景
- ブラックリストに載った脚本家の偽名
共同脚本家の一人ネドリック・ヤングは、当時ハリウッドを吹き荒れていた赤狩り(赤の恐怖)によってブラックリストに登録されていたため、「ネイサン・E・ダグラス」という偽名でクレジットされました。アカデミー賞受賞時も偽名のままでしたが、1993年に映画芸術科学アカデミーにより正式な記録が修復されました。 - 当初の配役構想と二人の絆
当初、監督はマーロン・ブランドとシドニー・ポワティエ、あるいはロバート・ミッチャムの主演を検討していました。しかしミッチャムは「白人と黒人が一緒につながれて逃げるなど当時の南部ではあり得ない」と降板。最終的にトニー・カーティスが自ら強く志願し、ポワティエとの見事な化学反応を生み出しました。 - トニー・カーティスのクレジットへのこだわり
当時のハリウッドでは黒人俳優の主演クレジットの位置が低く扱われることが一般的でしたが、トニー・カーティスは「ポワティエと自分の名前を同等にトップクレジットに並べるべきだ」と主張し、それを実現させました。 - 過酷だったロケーション撮影
川の激流を流されるシーンや泥まみれになるシーンなど、俳優たちは吹き替えなしで過酷なロケ撮影に挑みました。二人が本当の手錠でつながれた状態で何週間も撮影を行ったため、腕に擦り傷やアザが絶えなかったと語られています。 - ラストシーンに込められた強いメッセージ
列車に飛び乗って一人だけ逃げ切ることができたノアが、傷ついたジョーカーのために自ら列車を降りる決断をするラストは、人種を超えた人間愛と友情の勝利を象徴する映画史上の名場面として語り継がれています。 - シドニー・ポワティエの金字塔
本作での圧倒的な演技により、シドニー・ポワティエは黒人男優として初めてベルリン国際映画祭男優賞を受賞し、アカデミー主演男優賞にもノミネートされました。彼は名実ともにハリウッドのトップスターとしての地位を確立することになりました。
まとめ:作品が描いたもの
物理的な鎖によって強制的に結びつけられた二人が、過酷な逃亡を通じて心の中にあった憎悪と偏見の鎖を断ち切っていくプロセスを描いたヒューマンドラマです。人種問題という社会的なテーマを、エンターテインメントとしてのスリルと感動に見事に昇華させた名作です。
〔シネマ・エッセイ〕
冷たい雨の中、重い鉄の鎖で手首を縛られた二人の男。憎しみあう視線と吐き捨てられる罵詈雑言から始まる旅は、あまりにも過酷で絶望的に見えます。
しかし、幾度もの死線をともに乗り越えるうちに、皮膚の色といううわべの違いは消え去り、互いを一人の人間として尊重する真の絆が芽生えていきます。物語の終盤、タガネによって物理的な手錠が切断されたとき、二人はもはや鎖などなくても切っても切れない強い精神の絆で結ばれていました。
ラスト、走り去る列車のデッキから伸ばされた手と手。一度は掴み合いながらも、友を見捨てずに地上へと飛び降りたノアの姿に、胸が熱くなります。木陰で傷ついた友を抱きかかえ、力強く歌うノアの歌声は、どんな差別や理不尽にも屈しない人間の尊厳そのものの響きとして、いつまでも心に残ります。

