追いつめられた男
Walk Softly, Stranger
(アメリカ 1950)
[製作総指揮] ドール・シャーリー
[製作] ロバート・スパークス
[監督] ロバート・スティーヴンソン
[原作] マニュエル・セフ/ポール・ヤヴィッツ
[脚本] フランク・フェントン
[撮影] ハリー・J・ワイルド
[音楽] フレデリック・ホランダー
[ジャンル] クライム/フィルム・ノワール/ドラマ/恋愛
キャスト

ジョゼフ・コットン
(クリス・ヘイル)

アリダ・ヴァリ
(エレイン・コレッリ)
スプリング・バイントン (ブレントマン夫人)
ポール・スチュワート (ホワイティ)
ジャック・パール (レイ・ヒーリー)
ジェフ・ドネル (グウェン)
ジョン・マッキンタイア (モーガン)
概要
『追いつめられた男』(Walk Softly, Stranger)は、1950年公開のアメリカの犯罪メロドラマ映画。監督はロバート・スティーヴンソン、主演はジョセフ・コットンとアリダ・ヴァリ。表向きは洗練された紳士として暮らす男が、過去の罪と向き合いながら、一人の女性と出会い心を変えていく様子を描く、サスペンス要素を含むロマンス映画。
ストーリー
クリス・ヘイル(ジョセフ・コットン)は、どこか影を背負った紳士然とした男。彼はある日、ミッドウェストの小さな町にふらりと現れ、「この町で育った」と言って滞在し始める。実は彼の正体はギャンブラーかつ犯罪者で、逃亡中の身だった。
町では、戦争で足を負傷し車椅子生活を送るエレイン・カーライル(アリダ・ヴァリ)と出会う。彼女は地元の工場経営者の娘で、美しくも静かな孤独を抱えて生きていた。クリスは、最初は彼女を金づるとして近づくが、しだいに彼女の優しさと誠実さに惹かれ、罪の意識と向き合い始める。
クリスはかつての仲間と再会し、カジノの金を奪う計画に巻き込まれる。一度は逃げようとしたが、犯罪に手を染めてしまい、彼の平穏な生活は崩れていく。逃亡する中、彼はエレインに自分の正体と過去を告白し、彼女の思いやりに触れて、自らの罪を償う覚悟を決める。
ラストでは、彼が警察に出頭する意志を固め、エレインに別れを告げる。彼の背中を見送りながら、エレインはどこか希望の表情を浮かべる──過去から逃げるのではなく、向き合うことで新たな道が開けるという、静かな再生の予感が漂う幕切れとなる。
エピソード
ジョセフ・コットンとアリダ・ヴァリ
二人は『第三の男』(1949)でも共演。本作はその翌年に公開され、「再共演」が話題になったが、関係性は異なる設定で描かれている。
二人はプライベートでも良好な関係だったようで、コットンは撮影中に「彼女は一緒に仕事をしていてとても安心できる相手だった」と語っている。
アリダ・ヴァリ
アリダ・ヴァリは本作撮影時、ハリウッドに拠点を置いていたイタリア女優で、デヴィッド・O・セルズニックが彼女の契約マネージャーであり、女優として大々的に売り出していた。
当初はもっと暗いノワール調の作品として企画されていた
しかし、メロドラマ寄りのロマンス要素が強められ、ジャンルミックスなトーンとなった。
アリダ・ヴァリの役作り
彼女は撮影中、役作りのため実際に車椅子で生活していた時間もあった。役に入り込むための集中力は、当時のスタッフにも印象深かったという。
ロバート・スティーヴンソン監督
彼は後にディズニー作品を多く手がけ、『メリー・ポピンズ』の監督としても有名になるが、本作のようなダークな映画も初期には撮っていた。
セルズニック
セルズニックがアリダ・ヴァリのために本作を用意したという説もある。 彼女のハリウッド売り出し第2弾として企画されたという話が伝わっている。
エンディング変更
当初の脚本では、エレインが自ら命を絶つというバッドエンドだったが、テスト試写で観客に不評だったため、エンディングが差し替えられた。
ロマンス要素
サスペンス映画としてよりも、女性層からの支持が高かった。当時のレビューでも「感情的なロマンス要素」が評価されていた。
詩
劇中でエレインが読んでいる詩は、アリダ・ヴァリの提案で追加された。彼女は文学にも造詣が深く、台本に詩的要素を加えるよう訴えたという。
本作のテーマは「贖罪と赦し」
犯罪者が逃げずに自らの罪と向き合う姿は、50年代のアメリカ映画における道徳的再生の象徴として描かれている。
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