壮大な旅、手に汗握る冒険。大プロデューサー、マイク・トッドが全編ロケで放った、空前絶後の超大作エンターテインメント。

『80日間で世界一周。賭けよう、2万ポンドだ』。1872年、ロンドンの紳士フォッグ氏が挑んだ、不可能を可能にする地球一周の旅。ジュール・ヴェルヌの古典的名作を、当時最新のトッドAO方式による超ワイド画面で完全映画化。40名を超えるハリウッド・スターがカメオ出演し、熱気球、蒸気機関車、象の背中と、全編にわたって繰り広げられる驚異のパノラマ映像。世界を旅する喜びと興奮を詰め込んだ、究極のシネマ・スペクタクル。
80日間世界一周
Around the World in 80 days
(アメリカ 1956)
[製作] マイケル・トッド/ウィリアム・キャメロン・メンジーズ/ケヴィン・マクローリー
[監督] マイケル・アンダーソン
[原作] ジュールス・ヴァーン
[脚本] ジェームズ・ポー/ジョン・ファロー/S・J・ペレルマン
[撮影] ライオネル・リンドン
[音楽] ヴィクター・ヤング
[ジャンル] アドベンチャー
[受賞]
アカデミー賞 撮影賞/編集賞/作曲賞/作品賞/脚色賞
ゴールデン・グローブ賞 作品賞/男優賞(カンティンフラス)
ナショナル・ボード・オブ・レビュー (作品賞)
NY批評家協会賞 作品賞/脚本賞
キャスト

デヴィッド・ニーヴン
(フィリアス・フォッグ)
カンティンフラス (パスパルトゥー)
ノエル・カワード (ハスケス・バゴット)

ジョン・ギールグッド
(フォスター)

トレヴァー・ハワード
(デニス・フォレンタン)

シャルル・ボワイエ
(ガシー)
イヴリン・キーズ (浮気女)

ロナルド・コールマン
(鉄道職員)

シャーリー・マクレーン
(オーダ王女)

マレーネ・ディートリッヒ
(サロン・ホステス)

ジョン・キャラダイン
(プロクター・スタンプ大佐)

フランク・シナトラ
(サロン・ピアニスト)

バスター・キートン
(車掌)
受賞・ノミネートデータ
| 受賞年 | 賞 | 部門 | 結果 |
| 1957 | 第29回アカデミー賞 | 作品賞 | 受賞 |
| 1957 | 第29回アカデミー賞 | 脚色賞 | 受賞 |
| 1957 | 第29回アカデミー賞 | 撮影賞(カラー部門) | 受賞 |
| 1957 | 第29回アカデミー賞 | 編集賞 | 受賞 |
| 1957 | 第29回アカデミー賞 | 劇・喜劇映画音楽賞 | 受賞 |
| 1957 | 第29回アカデミー賞 | 監督賞・美術賞・衣裳デザイン賞 | ノミネート |
評価
プロデューサーのマイク・トッドが「映画館で世界旅行を体験させる」という野望を掲げ、莫大な予算と情熱を投じた作品です。スタジオでのセット撮影を排し、13か国におよぶ現地ロケを敢行。その圧倒的なスケール感は、当時の観客に凄まじい衝撃を与えました。
ヴィクター・ヤングによるあまりにも有名な主題歌とともに、全編に漂う楽観主義と冒険心は、まさにハリウッド黄金時代の頂点を示す、贅を尽くしたエンターテインメントとして燦然と輝いています。
あらすじ:紳士の賭けと、地球規模の逃走劇
1872年のロンドン。几帳面な英国紳士フィリアス・フォッグ(デヴィッド・ニーヴン)は、所属する改革クラブで「80日間で世界一周が可能か」という議論の末、全財産の半分にあたる2万ポンドを賭けて旅に出る。
新たに雇った万能な召使いパスパルトゥー(カンティンフラス)を連れ、一路フランスへ。熱気球でアルプスを越え、船や列車を乗り継ぎ、エジプト、インド、香港、日本、そしてアメリカへとひた走る。
しかし、フォッグ氏を銀行強盗と勘違いしたフィックス刑事(ロバート・ニュートン)が執拗に彼らを追い、行く先々でトラブルが巻き起こる。果たして、フォッグ氏は刻一刻と迫る期限内にロンドンへ帰り着くことができるのか。
アメリカ大陸を横断し、決死の覚悟で大西洋を渡り、ついにロンドンへ帰還したフォッグ氏。しかし、彼の時計は約束の時間をわずかに過ぎていた。全財産を失い、自責の念に駆られるフォッグ氏だったが、旅の途中で救い出したインドの王女アウダ(シャーリー・マクレーン)との結婚を準備する中で、驚くべき事実に気づく。
東回りで世界を一周したため、日付変更線を越えるごとに時間が進み、実はロンドン到着は「約束の日の前日」だったのだ。フォッグ氏は間一髪で改革クラブに飛び込み、賭けに見事勝利する。名誉と、そして旅で得た真の宝物である愛を手にし、物語は華やかな大団円を迎える。
エピソード・背景
- 「カメオ出演」の語源
本作にはフランク・シナトラ、バスター・キートン、マーレーネ・ディートリッヒといった大スターたちが、セリフのない端役や一瞬の登場で多数出演しています。製作のマイク・トッドは、これら豪華なスターたちの短い登場を、「浮き彫り細工の宝石(カメオ)」に例えて呼びました。「小さいけれど、本物の宝石のように価値があり、作品に美しい彩りを添えるもの」という意味が込められています。これが、現代でも使われる「カメオ出演」という言葉のルーツとなりました。 - トッドAO方式の威力
65mmフィルムを使用し、湾曲した巨大スクリーンに投影するトッドAO方式は、観客がまるでその場にいるかのような没入感を生み出しました。冒頭の数分間は通常のスタンダード画面で始まり、物語の開始とともにワイド画面に広がる演出も話題を呼びました。 - ヴィクター・ヤングの遺作
あの優雅なワルツの主題歌を生んだヴィクター・ヤングですが、アカデミー賞授賞式の数か月前に急逝。本作で初めて(かつ死後に)オスカーを手にするという、映画史に残る切ないドラマとなりました。 - 世界を股にかけた大ロケ
140のセットが組まれ、6万8000人以上のエキストラ、8000頭近い動物が動員されました。マイク・トッドの交渉力により、各国の軍隊や鉄道が撮影に協力したという逸話もあります。 - シャーリー・マクレーンの銀幕デビュー
王女アウダ役を演じたのは、当時まだ無名に近かったシャーリー・マクレーン。彼女の瑞々しい魅力が、重厚な紳士たちの冒険に華を添えました。 - 日本でのロケ
映画後半には鎌倉の大仏や平安神宮などが登場します。当時のハリウッドから見た「異国情緒あふれる日本」の描写は、今観ると非常に興味深い記録となっています。 - デヴィッド・ニーヴンの代名詞
常に冷静沈着、どんな危機にもティータイムを忘れないフォッグ氏の役は、ニーヴンの端正でユーモラスな持ち味と完璧に一致し、彼の生涯の当たり役となりました。
まとめ:作品が描いたもの
本作は、技術革新によって世界が一つに繋がり始めた時代の「驚き」と「歓喜」を凝縮した物語です。フォッグ氏の几帳面さは近代的な理性の象徴ですが、彼が旅を通じて異文化に触れ、愛を知る過程は、人間性の回復を描いています。
マイク・トッドが仕掛けたこの巨大な見世物は、単なる観光映画の枠を超え、「世界はこんなにも広く、そして美しい」という純粋な感動を現代にまで伝え続けています。
〔シネマ・エッセイ〕
ヴィクター・ヤングのあの軽やかなワルツが流れ出し、熱気球が真っ青な空へと浮かび上がる。その瞬間、私たちの心は日常を離れ、見たこともない地平線の彼方へと運ばれていきます。デヴィッド・ニーヴンの、仕立ての良いスーツを崩さないまま象に跨がる優雅な佇まい。彼が体現する「英国的ユーモア」が、過酷な旅路を極上のピクニックに変えてしまう。
画面いっぱいに広がるエジプトの砂漠、香港の喧騒、そしてどこか幻想的な日本の風景。当時の人々がこの映像を観て感じたであろう「世界への憧れ」が、今も色鮮やかにスクリーンの向こう側で脈打っています。
最後に気づく「失われた一日」の奇跡。それは、がむしゃらに前だけを見て進んできたフォッグ氏への、地球からの粋な贈り物だったのかもしれません。時間は管理するものではなく、楽しむもの。旅の終わりに手にするのは金貨ではなく、共に歩んだ仲間との絆。エンドロールを眺めながら、私たちは自分の心のパスポートに、また一つ新しいスタンプが押されたような、晴れやかな充足感に包まれるのです。

